Happy message
「よっ、ベルナール。見たぜ、今日の記事」
朝から明るい声が、忙しそうに記者が駆けまわっている新聞社に響いた。
聞き覚えのある声に、昨日取材した内容をまとめていたベルナールは、手を止めて顔をあげる。
「やあ、ロシュ。この間の君の情報が決定的な証拠になった、汚職議員の記事のことかい? あの時は本当にありが――――」
「違うよ。ここだよ、ここ!」
ロシュは含みのある笑いを浮かべながら、朝一で買ったと思われるウォードンタイムスの、とある一面をベルナールの顔の前に突きつけた。
「? 本日限定開催、ケーキ食べ放題・・・・・・ロシュ、もしかしてここに行きたいのかい?」
「だああっ、違う! ああ、もう、まどろっこしいな! ここ!」
疑問符を浮かべて首をかしげるベルナールにしびれを切らし、ロシュは一面の隅を乱暴に指差す。
「ん? どれどれ・・・」
改めて彼の指の先の数行に目を上下させたベルナールは、直後大きく息をのんだ。
隣ではそんなベルナールの表情を、ロシュが楽しそうに眺めている。
そこには、ほんの短い言葉が書かれていた。
「親愛なるベルナール兄さんへ。お誕生日、おめでとう! これからも、お仕事頑張ってくださいね。アンジェリークより」
何度読み返しても、錯覚でもなんでもない。
ここで初めて、ベルナールは今日が自分の誕生日であることを思い出した。
「まったく・・・」
この年になって、誕生日に驚かされるとは思わなかった。
苦笑いしたベルナールは、デスクに広げていた資料を手早く片づけると席を立った。
「何だ? どうしたんだよ、急に」
「取材だよ。話題の彼女にね」
ロシュが持ち込んだ新聞を綺麗に畳み直して、持ち主に返してから、
「この記事のお礼も兼ねて。そうだな、場所はさっきのケーキ食べ放題のカフェが良いかな」
「言っておくけど、この情報料は、高いぜ?」
「ああ、そうだな。じゃあ、報酬はケーキで良いかい?」
「良いわけあるか!」
何か言いたげなロシュに適当に手を振って、ベルナールは足早に出て行ってしまった。
取材には欠かせないはずの、愛用の万年をデスクの上に置き忘れていることすら気づいていないところに、彼の喜びの大きさの一端が見て取れる。
無邪気なはしゃぎように、からかいに来たはずのロシュは毒気を抜かれたように苦笑いを浮かべた。
「何かなあ。こうなると、敏腕記者もお手上げだな」
くしゃりと髪をかきあげると、用事は済んだとばかりに彼も新聞社を後にした。