恋人気分
「にぎやかですね」
華やかに飾られた店先に目を奪われながら、アンジェリークは嬉しそうに、隣を歩くベルナールを仰いだ。
「ああ、そうだね。みんなクリスマスを心待ちにしているんだね」
荷物を抱えなおしながら、ベルナールはうなずく。
「かく言う僕たちも、ずいぶんクリスマスを楽しみにしているように見えるだろうね」
「そ、それは・・・」
夫の目にかすかに揶揄が浮かんだことに、アンジェリークはさっと顔を赤らめた。
「だって、家族とクリスマスを過ごすなんて、ずいぶん久しぶりなんですもの。普段忙しいベルナールさんもお父様も揃うんですから、盛大にやりたかったんです」
「あはは。別に君を責めたわけじゃないよ」
抱えている紙袋の中には、食料品を始め、きらびやかな飾りが詰め込まれている。
傍から見れば、ずいぶん気合を入れて準備しているように見えるだろう。
「僕だって、家族とクリスマスなんて久しぶりなんだ。浮かれているのは、その通りだよ」
ベルナールはふと笑いを漏らした。
ここ数年は、クリスマスなど、別世界のイベントのように考えていた。
仕事はたまっているし、わざわざ気にして休みを取ったり準備をしたりする気はさらさらなかった。
そんな去年までが嘘のように、今年は――――否、今年からは、にぎやかなものになっていくのだろう。
そんな予感が、ベルナールの胸によぎる。
それがどんなに魅力的なことか。
口元が自然と緩むのも、仕方ないことだろう。
「ベルナールさん?」
急に黙り込んだベルナールをいぶかしんで、アンジェリークがひょいと彼の顔を覗き込む。
「あ、ごめん。ぼんやりしていたよ」
ずり落ちそうになる買出し品を器用に直しながら、ベルナールが手を差し出す。
「え?」
「手、つないでいこう。何だか人も増えてきたみたいだしね」
見れば通りには、行きかう人が増えてきたような気がする。
どの顔も来るお祭りに胸を膨らませ、笑顔が浮かんでいた。
しかし、アンジェリークはすぐにその手をとろうとはしなかった。
「? どうしたんだい」
「・・・だって、また子ども扱いしていません?」
「え?」
ややむくれたように頬を膨らませたアンジェリークに、最初は目を瞠ったベルナールであったが、それもつかの間。
ふと目元を細めて、微笑ましそうに妻を見つめるまなざしは、相変わらずいつものように穏やかだが、決して幼子に向けるものではない。
それを、肝心のアンジェリークは気づいていないのだが。
「・・・うん、じゃあ、こうしようか」
ベルナールは開いた腕で、アンジェリークの細い肩を抱いた。
「!」
「これだと、子ども扱いしているとは思わないだろう?」
「は・・・はい・・・」
顔を真っ赤にしながら、やっとの思いでうなずくアンジェリーク。
子ども扱いをすると怒るくせに、少しいつもより距離が縮まると戸惑いの表情を見せる。
それがおかしくて、彼女に知られないようにベルナールはこっそり吹き出した。
「さて、どこかで一休みしようか。少し歩き疲れたろう?」
通り過ぎる人を避けるために、肩に回した手に力を込めると、びっくりしたようにアンジェリークの身が跳ねる。
それを気取られたくないのか、必死に彼女は平静を装っていた。
子ども扱いするなといった手前、動揺しているのを隠したいのだろう。
それがまた、ベルナールの笑いを誘発する。
彼女の反応が可愛くて、ついつい余計なことを言ってしまう。
「ほら、こうしたほうが恋人らしいだろう。あ、そうか、僕たちはもう夫婦だったよね」
「そ、そうですね・・・」
ギクシャクと歩みがおかしいアンジェリークをリードしながら、終始ベルナールの笑顔は絶えなかった。