コタツ
「はああ、幸せだ・・・」
台の上に突っ伏しながら、心ノ介は深く息を吐き出した。
買ったばかりのコタツに思い切り手を突っ込んでいるために、自然と背中を丸める姿勢になっているのだ。
「あったかい。ここは天国だ」
感嘆の呟きを繰り返す心ノ介に、紗依はくすりと笑いをこぼした。
洗い物を終えて、彼の斜め向かいに座る。
「そんなに感動ですか?」
「おお〜、そりゃ、こんなにあったかい暖房器具があるなんて驚きだぜ」
嬉しそうにしている心ノ介が可愛らしい。
その様子は、まるで新しいおもちゃを手に入れてはしゃぐ子どものようだ。
と、心ノ介はさらに体を前のめりに伏せた。
「?」
何をしているのだろう、と首をかしげたとたん、手に触れた温かい感触に紗依ははっとした。
「うわ、冷たいな。って、皿洗い任せちまってたんだから、当たり前か」
コタツの中で、紗依の手を心ノ介の大きなそれが包み込んだのだ。
冷たい手に急に温かいものが触れたので、じわりと痺れを覚える。
だが、それも長くは続かない。
「紗依」
「え?」
名前を呼ばれたかと思うと、突然手を引かれて、
「へへ」
気がつけば心ノ介と同じように、台の上に伏せるような姿勢になっていた。
それがおかしかったのか、照れくさそうに心ノ介は笑った。
「ああ、幸せだなあ」
絡み付く指にどきどきしながらも、そ知らぬ顔でそう呟く。
ぎゅっとつながった指から、心ノ介の体温が紗依に伝わってきた。
「・・・・・・」
手はじわじわと温まっていく。
きっとコタツのせいではなくて、心ノ介の手が熱いせいだと紗依は思った。
ただ手をつないでいるだけ。
事実はそれだけなのに、気持ちはそれに比例しない。
「たったそれだけ」という事実に反して、どんどん心が満たされていく。
この感覚を言葉にするならば、先ほどから心ノ介がしきりに呟いているそれだ。
紗依は心ノ介の隣ににじり寄ると、そのまま体を預ける。
「え・・・紗依?」
びっくりした顔の心ノ介に誘われるように、口元に笑みが浮かんだ。
「幸せですね、心さん」
そう言って頭を心ノ介の胸に寄せると、彼は返事をする代わりに、今度はしっかりと紗依の体を抱きしめた。