Ice Blue Sweet 本文サンプルA



   First nursing(宍静)




「宍戸先輩?」
「お、おう・・・」
「あの、口を開けてください」
 おずおずとお願いする私に、宍戸先輩はためらいながらも、素直に口を開けた。私はそこに、先輩が大好きなチーズサンドを差し入れる。
 昼下がり、人目に付きにくい中庭に陣取った私たちは、お互いのお弁当を開いて、隣り合って座っていた。先輩は顔を赤くしながら、一口、チーズサンドにかぶりつくと、黙ってもぐもぐ口を動かしている。
 食べさせてもらっている先輩も恥ずかしいだろうが、食べさせてあげている私だって同じくらい恥ずかしい。
 どうしてこんなことになっているかと言うと、原因は先輩の右手首にあった。いつもはない、包帯が巻かれているのだ。
 話は少し前に戻る。お昼休みになって、いつものように中庭で待ち合わせをしてきてみると、先輩は包帯を巻いた手首を隠すようにしていた。
「練習中、ちょっとひねっちまったみたいだ」
 先輩はそんな風に軽く言って笑っていたけれど、大会が近いこの時期、そんな軽く済まされる事態ではない。何せ先輩は、氷帝学園テニス部を支える、レギュラーに選ばれた一人なのだ。事は先輩個人の問題にとどまらず、氷帝学園テニス部全体にかかわってくる。
「一応、授業は何とかなるんだけどよ。試合までには絶対治さねえとな」
「さっき、鳳君が私のところに来ましたよ。部活と授業以外では、先輩を頼みますって」
「頼みますって、いったい何をするって言うんだ。言っておくが、お前に荷物持ちをさせるつもりはないからな」
「うっ・・・」
 やろうと思ったことを先に言われてしまって、いきなり私は言葉を詰まらせた。
「大げさなんだよ。こんなの、すぐに治るって」
「でも、先輩はテニス部にとって欠かせないレギュラーじゃないですか! ずっと練習してきたし、もう先輩一人の体じゃないんですよ!」
「お前、そのセリフ・・・」
 がっくりと脱力したように先輩は肩を落としたが、真面目に話をしているのになぜそんな反応をされたのか、私にはさっぱりわからなかった。
 仕方がないので、気にせずさらに言葉を募る。
「それに、テニス部のことがなくても、私は心配です」
 先輩は大きなものをその両肩に背負っているから、とにかくみんなそちらへ目が向きがちだ。でも、私にとってはそんなもの、全然関係ない。先輩がレギュラーじゃなくても、そもそもテニス部に入っていなくても、けがをしたと聞けば心配する。
「とにかく、私は全力で先輩を介抱しますからね!」







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