聖なる夜

2‐3


「クリスマスパーティ、かあ」

 楽しそうな話だと思う。
 素敵な企画だ。
 普段かかわりの少ないカルディナとの交流が深められたら、もっと素敵だ。

 でも、一番素敵なのは、またあの人と一緒に思い出を作れるかもしれない、ということ。

「アンジェリークではありませんか」

「!」

 ちょうど思い浮かべた人物が、突然目の前の部屋から出てきたので、アンジェリークは心臓が止まるかと思うくらい驚いた。

「ニクスさん!」

 穏やかな笑みを浮かべたニクスも、初めは驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの平静さを取り戻す。

「どうしました? まだ何か校舎に用があるのですか?」

「あ。いえ、何かあるわけではないんです」

 用があったわけではない。
 ただ歩いていただけ。
 ニクスのことを考えながら。

「そうですか。ではそろそろ寮に帰ったほうが良いですね」

 窓の外は茜色に染まっている。
 校舎の中にも、いつのまにか生徒の数は少なくなっていた。

「途中までお送りいたしましょう。さあ」

「はい」

 アンジェリークはニクスの少し後に続く。

 静かな廊下は夕日の照り返しを受けて光っている。
 ゆったりとした時の流れの中を、二人だけが歩いているのは、何だか別世界にきたようだ。

「あなたはクリスマスパーティの話を聞きましたか?」

「はい。とても楽しみです」

「そうですね。すべてあちらが進めてくださっているので、私も詳しいことは知らないのです。どのような会になるのでしょうね」

 ニクスの言葉の端からは、彼もクリスマスパーティを楽しみにしている様子がうかがえた。
 アンジェリークには、それが単純に嬉しかった。

「では、今日はここで」

 いつの間にか、寮へと続く渡り廊下まで来ていた。
 アンジェリークは深々と頭を下げる。

「ありがとうございました!」

「いいえ、かまいませんよ、マドモアゼル」

 目元を細めてそう言うと、ニクスは来た時と同じようにゆったりした足取りで、また校舎へと戻っていった。

 クリスマスパーティ、か・・・。

 ニクスの背中を見送りながら、良い会になれば良いな、とアンジェリークは思った。







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