聖なる夜
4
「ふう。こんなもんかな」 今まで話を聞いていた女子生徒を見送ってから、ロシュは一息ついた。 手にしているのは生徒手帳。 そこにはびっしりと文字が書かれていた。 「よしよし、大収穫っと」 「へえ。やっとおしまいなの?」 「えっ!?」 思った以上の成果を得られて浮かれていたロシュに、氷よりも冷たい声が掛けられた。 誰なのかは確かめるまでもない。 「あ、アンジェリーク。い、いつから・・・」 「別に? ロシュが女の子に声を掛けまくっているのは知っているわ」 「・・・・・・」 と言うことは、ずいぶん前から見ていたというのか。 クリスマスパーティというイベントの中では、皆浮かれていて口も軽くなる。 それを狙って声をかけていたのだが。 「女の子とばかり、ずいぶん楽しそうに話していたけれど」 不機嫌なアンジェリークは、ついとそっぽを向いた。 「ん?」 それでロシュはピンときた。 「何だ。嫉妬?」 にたりと笑ってみせると、彼女は顔を真っ赤にして反論する。 「ち、違うわ! デレデレしているロシュの顔が、嫌だったのよ」 「だから、それが嫉妬なんだって」 へええ、とわざとらしくうなずくロシュに、アンジェリークは言葉を失ってしまった。 恥ずかしさが顔にあらわれているのが、何とも可愛らしい。 嬉しくなりながらも、ロシュは揶揄するような口調をやめない。 「オレが女の子と話しているのがそんなに嫌なわけ? へえ、お嬢様が嫉妬ねえ」 「・・・・・・」 「別に? オレは構わないけど」 おどけて見せるロシュに耐えられなくなったのか、アンジェリークは彼に背中を見せた。 「えっ」 彼女を見て、驚いた。 アンジェリークは茫然としながら、涙をこぼしていたのだ。 これにはロシュも慌てた。 「わ、悪かった! オレが悪かった! だから泣くなって!」 「・・・何を話していたか、教えてくれる?」 「教える! 教えるから!」 ほら、と言ってロシュは生徒手帳を開いてアンジェリークの目の前にさし出した。 「ほら!」 「え・・・?」 それを見て、アンジェリークは目を瞠った。 ロシュの集めいていた情報。 それは全部、アンジェリークに関することだった。 「オレは、お前のこと何も知らないから。お前の情報を集めていた。それにはメルローズの生徒から話を聞くのが手っ取り早いだろ?」 ロシュはまくしたてるように言った。 「オレはお前のことを知りたかったんだ」 「そう、なの・・・?」 「そうそう! ・・・って、あれ?」 全部白状してから気がついた。 アンジェリークがけろっとした表情で、自分を見返していることに。 涙の跡などどこにもない。 「お、お前! オレをだましたのか!?」 「だ、だましたんじゃないわ! だって、まともに訊いてもロシュは絶対本当のことを教えてくれないから・・・」 それで一芝居打ったというわけだ。 事態を飲み込んだロシュは、先ほどのアンジェリークと後退して、顔を真っ赤にした。 「やってくれたな。オレを出し抜くなんて・・・」 「い、いつもからかっているお返しよ」 こんな簡単な芝居に引っかかってしまった自分が激しく呪わしい。 だが、知られてしまったものは、仕方ない。 隠す必要も、もはやないだろう。 開き直ったロシュは、半ばやけっぱちで、勢い任せにアンジェリークの肩をつかんだ。 「そうだ! オレはお前が好きなんだ。お前のことがもっと知りたいんだよ。人に聞くだけじゃ足りねえ。ダメか!?」 一世一代の告白。 今までこんなふうに、不安いっぱいで告白したことなんてなかった。 だから、彼女が口を開く間ももどかしかった。 ロシュは辛抱強く彼女からの答えを待った。 「・・・・・・」 ぽつり、と彼女は言った。 一瞬聞き間違えかと思ったが、頬を染めて微笑むアンジェリークの顔を見ているうちに、だんだんと実感がわいてきた。 「オレも! 好きだって言ってもらえて、嬉しいぜ!」 柄にもなく浮かれていると自分でも分かったが、あふれる喜びを抑えることなどできない。 まだパーティの最中であるにもかかわらず、ロシュは思いきりガッツポーズをして、アンジェリークをさらに真っ赤にした。 |