聖なる夜




「ふう。こんなもんかな」

 今まで話を聞いていた女子生徒を見送ってから、ロシュは一息ついた。
 手にしているのは生徒手帳。
 そこにはびっしりと文字が書かれていた。

「よしよし、大収穫っと」

「へえ。やっとおしまいなの?」

「えっ!?」

 思った以上の成果を得られて浮かれていたロシュに、氷よりも冷たい声が掛けられた。
 誰なのかは確かめるまでもない。

「あ、アンジェリーク。い、いつから・・・」

「別に? ロシュが女の子に声を掛けまくっているのは知っているわ」

「・・・・・・」

 と言うことは、ずいぶん前から見ていたというのか。
 クリスマスパーティというイベントの中では、皆浮かれていて口も軽くなる。
 それを狙って声をかけていたのだが。

「女の子とばかり、ずいぶん楽しそうに話していたけれど」

 不機嫌なアンジェリークは、ついとそっぽを向いた。

「ん?」

 それでロシュはピンときた。

「何だ。嫉妬?」

 にたりと笑ってみせると、彼女は顔を真っ赤にして反論する。

「ち、違うわ! デレデレしているロシュの顔が、嫌だったのよ」

「だから、それが嫉妬なんだって」

 へええ、とわざとらしくうなずくロシュに、アンジェリークは言葉を失ってしまった。
 恥ずかしさが顔にあらわれているのが、何とも可愛らしい。
 嬉しくなりながらも、ロシュは揶揄するような口調をやめない。

「オレが女の子と話しているのがそんなに嫌なわけ? へえ、お嬢様が嫉妬ねえ」

「・・・・・・」

「別に? オレは構わないけど」

 おどけて見せるロシュに耐えられなくなったのか、アンジェリークは彼に背中を見せた。

「えっ」

 彼女を見て、驚いた。
 アンジェリークは茫然としながら、涙をこぼしていたのだ。

 これにはロシュも慌てた。

「わ、悪かった! オレが悪かった! だから泣くなって!」

「・・・何を話していたか、教えてくれる?」

「教える! 教えるから!」

 ほら、と言ってロシュは生徒手帳を開いてアンジェリークの目の前にさし出した。

「ほら!」

「え・・・?」

 それを見て、アンジェリークは目を瞠った。

 ロシュの集めいていた情報。
 それは全部、アンジェリークに関することだった。

「オレは、お前のこと何も知らないから。お前の情報を集めていた。それにはメルローズの生徒から話を聞くのが手っ取り早いだろ?」

 ロシュはまくしたてるように言った。

「オレはお前のことを知りたかったんだ」

「そう、なの・・・?」

「そうそう! ・・・って、あれ?」

 全部白状してから気がついた。
 アンジェリークがけろっとした表情で、自分を見返していることに。
 涙の跡などどこにもない。

「お、お前! オレをだましたのか!?」

「だ、だましたんじゃないわ! だって、まともに訊いてもロシュは絶対本当のことを教えてくれないから・・・」

 それで一芝居打ったというわけだ。
 事態を飲み込んだロシュは、先ほどのアンジェリークと後退して、顔を真っ赤にした。

「やってくれたな。オレを出し抜くなんて・・・」

「い、いつもからかっているお返しよ」

 こんな簡単な芝居に引っかかってしまった自分が激しく呪わしい。
 だが、知られてしまったものは、仕方ない。
 隠す必要も、もはやないだろう。
 開き直ったロシュは、半ばやけっぱちで、勢い任せにアンジェリークの肩をつかんだ。

「そうだ! オレはお前が好きなんだ。お前のことがもっと知りたいんだよ。人に聞くだけじゃ足りねえ。ダメか!?」

 一世一代の告白。
 今までこんなふうに、不安いっぱいで告白したことなんてなかった。
 だから、彼女が口を開く間ももどかしかった。
 ロシュは辛抱強く彼女からの答えを待った。

「・・・・・・」

 ぽつり、と彼女は言った。
 一瞬聞き間違えかと思ったが、頬を染めて微笑むアンジェリークの顔を見ているうちに、だんだんと実感がわいてきた。

「オレも! 好きだって言ってもらえて、嬉しいぜ!」

 柄にもなく浮かれていると自分でも分かったが、あふれる喜びを抑えることなどできない。
 まだパーティの最中であるにもかかわらず、ロシュは思いきりガッツポーズをして、アンジェリークをさらに真っ赤にした。






back