聖なる夜
4
「ヒュウガ先生の舞踊、とっても素敵でした!」 パーティは終わりにさしかかっている。 アンジェリークは先ほど有志の発表の際、故郷の舞を見せて喝采を浴びたヒュウガのもとに駆け寄っていた。 「あんなにしなやかな舞、初めて見ました!」 「そうか。気に入ってもらえたのなら、参加して良かった」 言葉は少ないが、いつも表情のあまり変わらないヒュウガの口元には、うっすら笑みが浮かんでいる。 アンジェリークの言葉を、素直に喜んでいた。 「先生の故郷は、キリセですよね」 「ああ。良く知っていたな」 調べましたから、など言えるわけがない。 アンジェリークは、 「ええ、まあ・・・」 とうなずくことしかできなかった。 ごほん、とわざとらしく咳払いをすると、気持ちを切り替えるように話題を振る。 「私、キリセについてはあまり詳しく知らないんですが、どんな所なんですか?」 キリセは東方の島国だ。 ファリアンから出る船で向かうことができるのだが、距離が遠いため、なかなか訪れる機会もない。 また、キリセまで旅行をしてきた、と言う友達も身近にいなかった。 地名は知っているけれど、実は良く知らない。 それがキリセだった。 「この大陸とは違った、独特の文化がある」 「独特と言うと、コズみたいな感じですか?」 南のコズも、このあたりとは違った文化がある。 しかし、ヒュウガははっきりと首を振った。 「いや、コズともまた別の文化だ」 「さっきの舞もそうですが、他にどんなものがあるんですか?」 「そうだな・・・」 ヒュウガは手元にあったグラスを指差した。 「たとえば、飲み物を飲む容器だが、このようにガラス製ではなく、土から作るものがある」 「土!?」 それでグラスが作れるというのか。 「それって、大丈夫なんですか? 衛生的に・・・」 「ああ、元の材料が土と言うだけで、別に土の上に飲み物を注ぐわけではない」 「そ、そうですよね・・・」 うなずきつつも、土から作るグラスのイメージができない。 土器のようなものだろうか。 釈然としないアンジェリークに、ヒュウガは別のものを指す。 「そうだな。では、これはどうだ。ここに飾ってあるフラワーアレンジメント」 テーブルの上には、花瓶の中に色とりどりの花が挿してある。 「キリセでは、剣山と言う針山の上に花を生けるのだ」 「針!? 針にお花を挿してしまうんですか!?」 そんな物騒なものが好まれているというのか。 そもそも、なぜ針に花を挿さなければならないのか。 先ほどにまして頭を抱えてしまったアンジェリークに、珍しくヒュウガも困惑している。 「ふむ。どう言ったものか・・・」 ヒュウガもうまく説明できないでいるのが、もどかしいようだ。 何と説明して良いか、本気で悩んでいる。 これでは、何を説明しても、さらに彼女を混乱させるだけだ。 アンジェリークはアンジェリークで、ヒュウガの言葉を理解しようと頑張っているのだが、どうにも想像できないので、納得するまでには至っていない。 二人で仲良く頭をひねる。 「そうか・・・!」 ようやく一つの答えを得たのは、ヒュウガだった。 「そんなに興味があるのなら、実際に見てみれば良い」 「そ、それはそうですが、私、行ったことがないので、一人で行けるか・・・」 「何故一人で行く必要がある?」 「え?」 それって・・・。 期待のこもったまなざしを向けると、ヒュウガは頼もしくうなずいた。 「ああ。連れて行ってやる。最も、今すぐに、と言うわけにはいかないが」 行くとなれば、一日では行けないからな、と言うヒュウガは気づいているだろうか。 確かに、距離的にも日帰りで行ってくるのは無理だ。 しかし、それはつまり・・・。 「アンジェリーク?」 「え? いえ、私は別に何もやましいことは考えていません!」 「は?」 真っ赤になってしまったアンジェリークに、ヒュウガはただ眉を寄せることしかできなかった。 |