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聖なる夜




 楽しかったパーティは終わりをつげ、あれだけ騒がしかった劇場内も、ほとんど人が残っていない。

「アンジェリーク。良かった。まだ残っていたんだね」

 そんな中で、はずむような声が聞こえたので、アンジェリークも同じくらい嬉しくなって振り返った。

「ルネさん。お疲れ様でした」

「ありがと。楽しんでくれた?」

「はい、とっても!」

 自信満々うなずくと、ルネも表情を和らげた。

「そっか。それは良かった」

「こんなに楽しい会を開いていただいて、このパーティを企画してくださったマティアスさんには大感謝ですね」

「えっ?」

 何気ない一言のつもりだったのだが、その言葉を聞いた途端、ルネの笑顔が消えた。

「ルネさん?」

 何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
 アンジェリークが不安な思いを抱いていると、

「ねえ、ちょっとこっちへ」

「きゃっ!」

 ルネは突然アンジェリークの手を引いて、走り出した。
 いったいどこへ行くつもりなのだろう。
 真っ暗になった中、劇場裏の小さな庭に出た。
 人気のないことを確認して、ルネはアンジェリークの身を引き寄せる。

「ルネさん!?」

 びっくりしているアンジェリークにはお構いなしに、綺麗な顔が彼女の耳元に近づく。

「これから言うことは、絶対に秘密だよ?」

「何・・・?」

「君のことがいけないんだ。あんなこと言うから」

 やっぱり、さっきの一言が気に障ってしまったのか。

「ごめんなさい、私・・・!」

「しっ。黙って」

 静かなルネの声。
 その声に逆らえずに口を閉ざすと、とんでもない一言が聞こえてきた。

「理事なんだよ」

「え?」

「ボクがほんとは、理事なんだよ」

「!?」

 ばっと顔をあげると、ルネは決まりが悪そうにそっぽを向いた。

「ボクはまだ若いからね。マティアスが表向きには理事になっている」

 でもね、と彼は言った。

「このパーティはボクの発案なんだ。キミにどうしても会いたくて。それだけは言いたかったんだ」

「ルネさん・・・」

 それだけのために、こんなパーティを開いてくれたというのか。

「本当言うとね、キミを初めて知ったのも、この間のパーティじゃなくて、それより前なんだ」

 いつかのことだ。
 どうしてもマティアスの都合がつかなくて、代理と言うことでメルローズ女学院へ行ったとき。
 アンジェリークを見たのだ。
 小さな子猫を抱え、飼い主を探していた。

「もしかして、あの黒い猫ちゃんのこと」

「覚えていない? あの時その猫をもらったのは、ボクなんだよ」

「あ・・・」

 アンジェリークの脳裏に、その時の光景がよみがえる。
 そう言えば、あのとき。

「猫? 飼い主を捜しているの?」

 見覚えのない少年に声をかけられたのだ。
 女学院に少年がいるということに驚きつつも、猫を見下ろす。

「そうなんです。でも、やっぱりなかなか飼い主が見つからなくて・・・」

「そう。じゃあ」

 少年はそう言って、猫を受け取った。

「あの時、ボクが飼ってあげるって言ったんだよね。あの猫、元気にしているよ」

 まさか、あの時の少年がルネだったというのか。
 あの後、すぐに少年はいなくなってしまったので、確かに気になっていたと言えば気になっていた。

「ボクはずっと、キミにもう一度、会いたかったんだ」

 でも、とルネは目を伏せる。

「びっくりしたよね。突然色々と・・・ボクのこと嫌いになった?」

「まさか! 反対です!」

 慌ててアンジェリークは反論する。

「とっても楽しかっただけでもお礼が言いたかったのに、私に会いたいと思ってくれていたなんて・・・」

 幸せすぎる。
 その一言は言葉にできなかったので、ただルネの肩に頭を載せた。

「素敵なパーティをありがとうございます」

「こちらこそ、ありがと」

 二人は額を近づけると、どちらからともなく微笑み合った。







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