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聖なる夜
4
楽しかったパーティは終わりをつげ、あれだけ騒がしかった劇場内も、ほとんど人が残っていない。 「アンジェリーク。良かった。まだ残っていたんだね」 そんな中で、はずむような声が聞こえたので、アンジェリークも同じくらい嬉しくなって振り返った。 「ルネさん。お疲れ様でした」 「ありがと。楽しんでくれた?」 「はい、とっても!」 自信満々うなずくと、ルネも表情を和らげた。 「そっか。それは良かった」 「こんなに楽しい会を開いていただいて、このパーティを企画してくださったマティアスさんには大感謝ですね」 「えっ?」 何気ない一言のつもりだったのだが、その言葉を聞いた途端、ルネの笑顔が消えた。 「ルネさん?」 何かいけないことを言ってしまったのだろうか。 アンジェリークが不安な思いを抱いていると、 「ねえ、ちょっとこっちへ」 「きゃっ!」 ルネは突然アンジェリークの手を引いて、走り出した。 いったいどこへ行くつもりなのだろう。 真っ暗になった中、劇場裏の小さな庭に出た。 人気のないことを確認して、ルネはアンジェリークの身を引き寄せる。 「ルネさん!?」 びっくりしているアンジェリークにはお構いなしに、綺麗な顔が彼女の耳元に近づく。 「これから言うことは、絶対に秘密だよ?」 「何・・・?」 「君のことがいけないんだ。あんなこと言うから」 やっぱり、さっきの一言が気に障ってしまったのか。 「ごめんなさい、私・・・!」 「しっ。黙って」 静かなルネの声。 その声に逆らえずに口を閉ざすと、とんでもない一言が聞こえてきた。 「理事なんだよ」 「え?」 「ボクがほんとは、理事なんだよ」 「!?」 ばっと顔をあげると、ルネは決まりが悪そうにそっぽを向いた。 「ボクはまだ若いからね。マティアスが表向きには理事になっている」 でもね、と彼は言った。 「このパーティはボクの発案なんだ。キミにどうしても会いたくて。それだけは言いたかったんだ」 「ルネさん・・・」 それだけのために、こんなパーティを開いてくれたというのか。 「本当言うとね、キミを初めて知ったのも、この間のパーティじゃなくて、それより前なんだ」 いつかのことだ。 どうしてもマティアスの都合がつかなくて、代理と言うことでメルローズ女学院へ行ったとき。 アンジェリークを見たのだ。 小さな子猫を抱え、飼い主を探していた。 「もしかして、あの黒い猫ちゃんのこと」 「覚えていない? あの時その猫をもらったのは、ボクなんだよ」 「あ・・・」 アンジェリークの脳裏に、その時の光景がよみがえる。 そう言えば、あのとき。 「猫? 飼い主を捜しているの?」 見覚えのない少年に声をかけられたのだ。 女学院に少年がいるということに驚きつつも、猫を見下ろす。 「そうなんです。でも、やっぱりなかなか飼い主が見つからなくて・・・」 「そう。じゃあ」 少年はそう言って、猫を受け取った。 「あの時、ボクが飼ってあげるって言ったんだよね。あの猫、元気にしているよ」 まさか、あの時の少年がルネだったというのか。 あの後、すぐに少年はいなくなってしまったので、確かに気になっていたと言えば気になっていた。 「ボクはずっと、キミにもう一度、会いたかったんだ」 でも、とルネは目を伏せる。 「びっくりしたよね。突然色々と・・・ボクのこと嫌いになった?」 「まさか! 反対です!」 慌ててアンジェリークは反論する。 「とっても楽しかっただけでもお礼が言いたかったのに、私に会いたいと思ってくれていたなんて・・・」 幸せすぎる。 その一言は言葉にできなかったので、ただルネの肩に頭を載せた。 「素敵なパーティをありがとうございます」 「こちらこそ、ありがと」 二人は額を近づけると、どちらからともなく微笑み合った。 |