聖なる夜




「やあ、小さなアンジェ。パーティを楽しんでいるかい?」

 パーティも終盤に差し掛かっている。
 皆が談笑している間を縫って、ベルナールが声をかけてきた。

「はい、とっても楽しいです」

「そう。それは良かったね」

 そう言って彼は、アンジェリークを頭のてっぺんから足の先まで眺めた。

「な、何ですか? 変ですか?」

 アンジェリークもつられて、自分のドレスを見る。
 サリーとハンナにプレゼントされた代物は、ピンク色のフリルとリボンが可愛らしいものだった。
 少し少女趣味っぽいのだが、そういう服をあまり気ないアンジェリークに是非、と送られてしまったので、着ないわけにはいかない。
 嬉しいことは嬉しいのだが、果たして自分に似合っているのかが不安だった。

 そんなアンジェリークに対し、ベルナールははっきり首を振った。

「まさか。とっても似合っているよ。お姫様みたいだ」

「兄さんたら、大げさだわ」

「僕はいたって真剣なんだけどね」

 顔を赤くしてしまったアンジェリーク。
 困ったようにベルナールは頭をかいた。

「じゃあ、これで機嫌を直してくれないかい?」

 ベルナールは小さな包みを差し出した。

「これって・・・」

「君に、僕からのプレゼント」

 手の中に包みを渡されて、プレゼントとベルナールの顔を交互に見る。

「さあ、開けてみて」

「あ、はい!」

 アンジェリークは驚きから解放されぬまま、震える手で包み紙を開く。
 その中には、箱があって、さらにその中に彼からの贈り物が入っていた。

「これは・・・」

 アンジェリークは取り出して、しげしげと見つめる。
 それは、ピンク色のリボンだった。
 紅色と桜色の糸が、交互に縫い込まれているものだ。

「街で見かけたとき、君に似合うだろうと思って買ってしまったんだ。受け取ってもらえないかな」

「で、でも、こんなに可愛いもの・・・」

 私に似合うかしら。

 そのアンジェリークの言葉は、口にされる前にベルナールに遮られた。

「もちろん。似合うと思って買ってきたんだから」

 彼はアンジェリークの手からリボンを受け取ると、彼女の髪の毛を一房手にする。

「!」

 どきりと胸が高鳴ったことを、ベルナールは気づいただろうか。
 構わず彼は、送ったばかりのリボンを水色の髪の毛に結わえた。

「ほら、やっぱり」

 自信満々なベルナールの声。
 見てごらん、と言われ、アンジェリークは近くにあった姿見の自分を見た。

「あ・・・」

 ベルナールが太鼓判を押したピンクのリボン。
 そんな可愛らしいものが似合うものかと不安だった。

 しかし。

「ほら。君のドレスとも良く似合っているだろう?」

 ベルナールは、ぽん、とアンジェリークの肩を叩く。

「変、ではないと思います・・・」

「もちろん。そうだろう?」

 にこにこと嬉しそうに微笑んでいるベルナール。
 その笑顔に、アンジェリークの顔は急激に火照り出した。
 そんな顔がつぶさに見てとれたので、姿見からも視線を外す。

「アンジェリーク、ひとつお願いがあるんだけど」

 照れるアンジェリークの耳に、ベルナールのやわらかな声が聞こえる。
 昔と変わらぬ優しい声だ。
 この声は聞くと、どんなにつらいことがあっても、とても安心できて、昔から好きだった。

「な、何ですか?」

 顔をうつむけたまま、アンジェリークは聞き返す。

「今度、一緒に出かけないかい?」

「え?」

「その時に、そのリボンをつけてきてほしいんだ」

 ベルナールはそっとアンジェリークの髪の毛に触れた。
 それだけで苦しいくらい、胸の鼓動は速くなる。

「これがあれば、君だとすぐにわかるからね」

 愛おしそうにアンジェリークを見つめるベルナールのまなざしは、どこまでも優しげで、見つめられただけで溶けてしまいそうだ。
 彼の視線を意識すればするほど、呼吸が苦しくなる。

「ねえ、ダメかい?」
 
 優しく誘われて、断ることなんてできない。
 アンジェリークは精一杯の勇気を振り絞る。

「ダメじゃないです」

「そっか」

 ぱっと彼の表情が晴れ渡った。

「ありがとう、アンジェ!」

「きゃっ!」

 ここが人のたくさん集まる場所だということも忘れ、ベルナールは思いきりアンジェリークを抱きしめた。






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