聖なる夜
4
「やあ、小さなアンジェ。パーティを楽しんでいるかい?」 パーティも終盤に差し掛かっている。 皆が談笑している間を縫って、ベルナールが声をかけてきた。 「はい、とっても楽しいです」 「そう。それは良かったね」 そう言って彼は、アンジェリークを頭のてっぺんから足の先まで眺めた。 「な、何ですか? 変ですか?」 アンジェリークもつられて、自分のドレスを見る。 サリーとハンナにプレゼントされた代物は、ピンク色のフリルとリボンが可愛らしいものだった。 少し少女趣味っぽいのだが、そういう服をあまり気ないアンジェリークに是非、と送られてしまったので、着ないわけにはいかない。 嬉しいことは嬉しいのだが、果たして自分に似合っているのかが不安だった。 そんなアンジェリークに対し、ベルナールははっきり首を振った。 「まさか。とっても似合っているよ。お姫様みたいだ」 「兄さんたら、大げさだわ」 「僕はいたって真剣なんだけどね」 顔を赤くしてしまったアンジェリーク。 困ったようにベルナールは頭をかいた。 「じゃあ、これで機嫌を直してくれないかい?」 ベルナールは小さな包みを差し出した。 「これって・・・」 「君に、僕からのプレゼント」 手の中に包みを渡されて、プレゼントとベルナールの顔を交互に見る。 「さあ、開けてみて」 「あ、はい!」 アンジェリークは驚きから解放されぬまま、震える手で包み紙を開く。 その中には、箱があって、さらにその中に彼からの贈り物が入っていた。 「これは・・・」 アンジェリークは取り出して、しげしげと見つめる。 それは、ピンク色のリボンだった。 紅色と桜色の糸が、交互に縫い込まれているものだ。 「街で見かけたとき、君に似合うだろうと思って買ってしまったんだ。受け取ってもらえないかな」 「で、でも、こんなに可愛いもの・・・」 私に似合うかしら。 そのアンジェリークの言葉は、口にされる前にベルナールに遮られた。 「もちろん。似合うと思って買ってきたんだから」 彼はアンジェリークの手からリボンを受け取ると、彼女の髪の毛を一房手にする。 「!」 どきりと胸が高鳴ったことを、ベルナールは気づいただろうか。 構わず彼は、送ったばかりのリボンを水色の髪の毛に結わえた。 「ほら、やっぱり」 自信満々なベルナールの声。 見てごらん、と言われ、アンジェリークは近くにあった姿見の自分を見た。 「あ・・・」 ベルナールが太鼓判を押したピンクのリボン。 そんな可愛らしいものが似合うものかと不安だった。 しかし。 「ほら。君のドレスとも良く似合っているだろう?」 ベルナールは、ぽん、とアンジェリークの肩を叩く。 「変、ではないと思います・・・」 「もちろん。そうだろう?」 にこにこと嬉しそうに微笑んでいるベルナール。 その笑顔に、アンジェリークの顔は急激に火照り出した。 そんな顔がつぶさに見てとれたので、姿見からも視線を外す。 「アンジェリーク、ひとつお願いがあるんだけど」 照れるアンジェリークの耳に、ベルナールのやわらかな声が聞こえる。 昔と変わらぬ優しい声だ。 この声は聞くと、どんなにつらいことがあっても、とても安心できて、昔から好きだった。 「な、何ですか?」 顔をうつむけたまま、アンジェリークは聞き返す。 「今度、一緒に出かけないかい?」 「え?」 「その時に、そのリボンをつけてきてほしいんだ」 ベルナールはそっとアンジェリークの髪の毛に触れた。 それだけで苦しいくらい、胸の鼓動は速くなる。 「これがあれば、君だとすぐにわかるからね」 愛おしそうにアンジェリークを見つめるベルナールのまなざしは、どこまでも優しげで、見つめられただけで溶けてしまいそうだ。 彼の視線を意識すればするほど、呼吸が苦しくなる。 「ねえ、ダメかい?」 優しく誘われて、断ることなんてできない。 アンジェリークは精一杯の勇気を振り絞る。 「ダメじゃないです」 「そっか」 ぱっと彼の表情が晴れ渡った。 「ありがとう、アンジェ!」 「きゃっ!」 ここが人のたくさん集まる場所だということも忘れ、ベルナールは思いきりアンジェリークを抱きしめた。 |