Sweetest




「・・・あのさあ」


 もう耐えられないとばかりに、遂にムツキが口を開いた。


「頼むから、続きは姉ちゃんの部屋でやってくんない?」

「え?」


 仲良く声をぴったり合わせて、食後のリビングで一緒にくつろいでいたサツキとカナデは揃って顔を上げた。
 穏やかな休日の昼下がり。


 母親は今日も仕事で留守をしていた。
 代わりにサツキが昼食の用意をし、ちょうど済ませたところだ。
 リビングにはサツキとカナデ、ムツキの三人しかいなかった。


「何? どうしたの? 急に」

「何って・・・」


 ムツキはこめかみを押さえながら、困惑のにじむ顔でため息をついた。


「あのね、仲が良いことは良いんだよ。俺だって嬉しいし。でも、目の前でいちゃつかれちゃ、落ち着かないんだよ」

「い・・・いちゃつくって・・・!」

「な、何を言い出すんだ、急に・・・!」


 反応もそっくり。
 さすが幼馴染みというか、さすが恋人というか。
 だからこそ、同じリビングにいたムツキを困らせることになったのだが。


「二人とも、無自覚なのが凄いよ」


 今までのやり取りを聴かされていたムツキは、呆れたような感心したような、どちらもない交ぜになった呟きを洩らす。


 例えばこうだ。
 サツキとカナデは先ほどから、ファッション雑誌を読んでいた。


「ねえ、カナデ」

「ん? どうした?」

「これなんだけど・・・」

「・・・何だ、お前、こんなモデルがタイプなのかよ」

「違うよ! そうじゃなくて、この人が来ている服のほう」

「服?」

「うん。これ、きっとカナデが着たら似合うだろうなあって」

「え?」

「カナデ、スタイルも良いし格好良いから、このモデルさんより絶対綺麗に着こなせると思う」

「そ・・・そうか? あ・・・ありがとう・・・」

「えっ、あっ、私・・・」

「・・・・・・」


 そして、顔を真っ赤にして沈黙する二人。
 どちらも恋愛に慣れているわけではないから、傍から見ていると初々しいことこの上ない。
 気分はまさに、たっぷりの蜂蜜とチョコレートを掛け、あんことキャラメルでトッピングされた果物の砂糖漬けを、口いっぱいに突っ込まれているのと変わらない。
 二人がくっ付くことを望んでいたムツキでさえ、胸やけがしてきたくらいだ。


「とにかく、このままじゃ俺の血糖値が上がっちゃうの! せっかくの休みなんだから、二人でゆっくりどうぞ」

「もう、何よ、急に」

「まあ、そんな怒るなよ。ムツキも俺たちに気を遣ってくれているんだ」


 どちらかといえば、二人のためというよりは自分のために近いのだが。
 二人の甘い気にさらされていては、いつかこの甘さに溺れてしまいそうだった。


「じゃ・・・じゃあ、部屋にいるから」

「うん」

「お前、やっぱ良い奴だな」

「や、それほどでもないよ」


 ひらひらと手を振って二人を見送る。
 足音が階段を登り終えたところで、ムツキはやれやれとため息をついた。


 長年お互い片思い同士で、うまく噛み合わなかったせいで離れ離れになっていたのに、いざくっ付くとこれ以上の相手はお互いいないだろうと分かる。
 それくらいサツキとカナデはお似合いで。
 何より二人とも、とてつもなく幸せそうだった。
 くっ付くまでもはらはらさせられたが、くっ付いたらくっ付いたで、これまた心が落ち着かないものだ。


「でもま、納まるところに納まったんだし」


 それはずっと傍で二人を見続けていたムツキにとって、嬉しい結果だった。


「仕方ないか。これくらいは我慢しよう」


 これではどちらが年上か分かったものではない。
 兄や姉を見守るというよりは、下の弟妹を見るような心持ちで、今日もムツキは二人の幸せに心を和ませていた。






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