「どうした、アンジェリーク」

 劇場を出たエントランスにうずくまっていると、心配そうな声が下りてきた。
 アンジェリークははっとして顔を上げる。

「ヒュウガ先生。いえ、何でも・・・」

「足を怪我したのか」

 ヒュウガはひざをつくと、アンジェリークが押さえている右足首に触れた。

「女性の足に触れるのは、本来は無礼に当たるが、今だけは許してほしい」

 ひんやりとした感触に、思わず顔をしかめてしまった。

「捻挫したのか」

「大丈夫です。大丈夫ですから・・・」

 ダンスを一緒に踊ってほしい。

 そう告げようとしたが、ヒュウガの険しい顔の前では、どうしても言えなかった。
 ヒュウガを探していて、うっかり足をくじいたなど、情けなくて仕方ない。

 ダンスは出来ないし、ヒュウガには迷惑をかけるし。

 アンジェリークは泣きたくなった。

「そんなに痛いのか。医務室に行こう」

「いいえ、大丈夫です」

「・・・・・・」

 ヒュウガはひょいとアンジェリークを抱えあげた。

「ヒュウガ先生!?」

「やはり医務室へ行こう」

「でも、ダンスは・・・」

「この足では止めておいたほうが良い」

 ばっさり言い切られて、アンジェリークは閉口した。
 何て間抜けなんだろう。
 しゅんとうなだれてしまった彼女に、よく通る声が耳に届いた。

「医務室だと、誰にも邪魔されることはないだろう」

「せ、先生!?」

 びっくりして顔を上げると、どこかしてやったりといった様子で、ヒュウガはにっと唇を吊り上げた。





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