「ねえ、キミ。ボクを通り過ぎて、どこへ行くつもり?」

 きょろきょろとダンスホールを見回していると、背後から声を掛けられた。

「ルネさん!」

 すぐに相手が分かったので、名前を呼びながら振り返ると、ルネも涼やかに目を細めた。

「誰を探していたの? ボク以外の相手だったら許さないけどね」

「大丈夫です。ルネさんを探していたんですよ」

 相手が見つかってほっとするアンジェリークとは対照的に、ルネは意表を衝かれたように言葉を呑んだ。

「ルネさん?」 

「ねえ、それって天然なの? それともわざと?」

「え?」

 ルネは座っていたテーブルからひょいと降りて、アンジェリークに並んだ。

「そんな風に微笑まれたら、ボクを誘いに来たのかなって思っちゃう」

「そうです。私、ルネさんを誘いにきたんですよ」

 どうして分かったんですか、と問うてみても、彼の渋面は治まらなかった。

「ああ、もう。もっと余裕を持って待っていたかったけれど、君が悪いんだよ。すぐにボクを見つけてくれないから」

「ルネさん?」

 よく見ると、ルネは唇を尖らせていた。真っ赤な顔をして。

「あ・・・待ってて、くれたんですね」

「・・・・・・うん」

「ありがとうございます」

 ふわりと微笑むアンジェリークの肩に、ルネはそっと額を載せる。

「ボクの顔が赤くなくなるまで、責任取ってよね」

「・・・はい」

 肩にかかる重みがいとおしい。
 アンジェリークは大切そうにルネの背中に手を回した。





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