「兄さん!」

 アンジェリークは、ダンスホールの隅の壁に寄りかかっていたベルナールに声をかけた。

「ああ、アンジェ。ドレス姿もとってもチャーミングだよ」

「もう、兄さんたら・・・」

 口ではそんなことを言いながら、アンジェリークには嬉しさがにじみ出ていた。
 ほほえましそうに眺めていたベルナールに、アンジェリークはそっと手を差し出した。

「アンジェ?」

「その・・・交流会のダンスの相手は、先生でも構わないですよね?」

「え?」

 見るとアンジェリークの手は、緊張のために震えていた。
 断られたらどうしようと、思っているのだろう。

「・・・僕が君の誘いを断るような男に見えるのかい?」

「兄さん?」

 ベルナールは差し出されたアンジェリークの手を、包み込むようにぎゅっと握り締めた。

「光栄だよ。お姫様。僕でよければいつでもお相手するさ」

「ありがとう」

 ベルナールの優しい言葉が嬉しかった。
 アンジェリークが感謝の意を表して頭を下げると、誰にも気づかれぬよう、こっそりベルナールが囁く。

「ダンスだけじゃなくて、いっそ僕の人生のお相手を務める気はないかい?」

「えっ!?」

 とんでもないことを言われたアンジェリークは、これ以上ないほどベルナールを凝視する。

「・・・なんてね」

「も、もう! からかったのね!」

 つい、とアンジェリークは顔をそらしてしまった。
 顔を真っ赤にして怒る彼女を見ながら、

「冗談じゃなくなる日が来ると良いね」

 ベルナールは心の中でそう呟いた。





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