「ほう、馬子にも衣装とはよく言ったものです」

 ダンスホールを歩いていると、感心した様子のエレンフリートが眼鏡を押し上げた。

「エレンフリートさんはダンス、やらないんですか?」

「私は最初からこの企画には、反対ですからね。皆が勝手にやってくれれば良いんです」

 やれやれといった感じでため息をつく彼に、アンジェリークは首をかしげた。

「エレンフリートさんはこの交流会、楽しんでいないんですか?」

「楽しい? まさか。早く終わってほしいと思っていますよ」

 心底ダンスには興味がないのだろう。
 中等部の生徒会長としての仕事は立派なものだった。
 だからこそ、思うのだ。
 彼にも、交流会を楽しんでほしいと。

「そうだ、じゃあ、一緒に踊りませんか?」

「えっ・・・?」

「エレンフリートさん、パートナーがいないんですよね。私もなんです。ダンス、踊りましょうよ」

 アンジェリークはエレンフリートの手を掴んで、引っ張る。

「あっ、アンジェリーク・・・!」

「ダンスは大丈夫ですよね。私は不安なので、よろしくお願いします」

「・・・・・・」

 ダンスホールに二人で立つ。
 しばし呆然としていたエレンフリートは、アンジェリークの手をつなぎながら、顔をそらした。

「し、仕方ないですね。あなたがそこまで言うなら、付き合ってあげます。せいぜい私の足を踏まないよう、気をつけてください」

「はい」

 音楽が始まる。
 気がつかない間に、エレンフリートは目尻を下げて微笑んでいた。





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