「なあ、そこのお嬢さん」

 ダンスの相手を探しに行こうとしていたアンジェリークは、探し人にいきなり声を掛けられた。

「ロシュ、お嬢さん、はやめて。からかわれているみたいだわ」

「そうか? 別に深い意味はないんだけど」

 いつもは制服をだらしなく着崩している彼も、今日ばかりはきちっとスーツを着ている。
 しっかりした格好をしていれば、それなりに格好よくも見える。

「何? オレに惚れた?」

「ま、まさか! 変なこと言わないで」

 一瞬心の中を覗かれたのかと思った。
 初対面であれだけ印象が最悪だったのに、今では不思議と彼が気になっている。我ながらおかしかった。

「で?」

「何?」

「何って、オレが見た限り、あんたはずっときょろきょろしていたからさ。ダンスの相手、探していたんだろ?」

「え、ええ・・・」

 ダンス、踊ってくれる? 

 そういおうとしたアンジェリークより先に、ロシュはカメラを取り出した。

「じゃあ、オレがばっちり写真に収めてやる。あっ、お代はサービスしとくぜ?」

「・・・・・・」

 何だか自分ばかり浮かれていたのに、腹が立ってきた。
 アンジェリークはついと顔をそらした。

「良いわ。写真なんていらないもの」

「はあ? 何怒っているんだ。オレがせっかく撮ってやろうって言っているのに」

「だって、自分で自分を撮るなんて、できないでしょ?」

「え?」

 ようやくアンジェリークが何故機嫌を損ねたのか気がついたロシュは、一瞬で顔を赤く染めた。

「お前、それって・・・」

「嫌なら良いの。別の人を当たるから」

「ま、待て! オレは・・・!」

 それに続くロシュの言葉を聞いたとたん、アンジェリークはようやく、あふれるような喜びの笑みを浮かべた。





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