「アンジェ、良かった。特製のシフォンケーキがなくなる前に会えて」

 ダンスホールの入り口で、軽食の給仕をしていたジェイドは、アンジェリークを見つめるなり、一皿のケーキを差し出した。

「君も食べてくれるんだろうと思って、心を込めて焼いたんだ。さあ、食べてみて」

「は、はい」

 ダンスの相手をお願いに来たはずだが、ジェイドの笑顔に押されて、アンジェリークはフォークを取った。
 グレイの色をしているのは、紅茶の葉を練りこんであるかららしい。
 進められるまま口に含むと、さわやかな茶葉の風味が口いっぱいに広がった。

「おいしい・・・!」

「それは良かった。君のその笑顔を見られただけで、俺は幸せだよ」

 ジェイドはにこにこと上機嫌だ。
 今ならダンスを誘ってみても良いかもしれない。
 そう思ったアンジェリークは、思い切って切り出した。

「あの、ジェイドさん。私とダンス、踊ってもらえませんか?」

「えっ?」

 ジェイドは持っていたお皿を派手に落とした。
 だが、そんなことには気づきもしない様子のジェイドは、さっとアンジェリークから顔をそらした。

「ジェイドさん・・・?」

 やっぱり迷惑だっただろうか。
 にわかに広がる不安を胸に、アンジェリークはジェイドの顔を覗き込んだ。
 と。

「え?」

 目の前の彼は、口元を手で覆っていた。
 その下の顔は・・・・・・びっくりするほど真っ赤だった。

「!」

 予想外のジェイドの反応に、つられてアンジェリークの顔も赤くなってしまう。

「え・・・ええと、ダンス、だよね。うん。良いよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 アンジェリークは差し出された手に自分のそれを重ねると、リードされながらジェイドと一緒にホールに立った。
 自分の望みは叶ったはずなのに。
 顔の火照りは、お互いダンスが終わっても引くことはなかった。






4へ   back