(あなざぁ用心棒・番外編)
〜望月藩『姫君ものがたり』〜
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―数日後。 ちょっとした使いに出された紗依は、道行く人に道を尋ねながら、城下町をさまよっていた。 「????? えっと、ここ、右に曲がれば・・・???」 何故か北浜城の城下町というのは、巨大迷路を彷彿とさせるような坂道あり・分かれ道あり・行き止まりありの複雑な道に彩られている。 ― ・・・いっその事、オリエンテーリングとかで観光名物の一環に売り出してみたらどうなのかしら・・・? そんな思いつきが浮かんでしまうくらいに、道は複雑骨折していた。ところどころで出会う人に道を尋ね・尋ね、あ〜でもない・こ〜でもない、と早々一時間くらい経過していたりする。 ― 慌てなくとも、ゆっくり行って来て大丈夫だから@ 笑顔で送り出してくれた女中頭の『笑顔』の意味が、まさかこんな事を語っていようとは・・・。一体誰が想像出来たであろう★ ― ううううう★ ま、まぁ、一応お城は見える事だし、誰一人いないって訳でも無いし・・・。 自分で自分を励ましながら、早くもまた新たな行き止まりに遭遇―。 「・・・私って、こんなに方向音痴だったかしら?」 こちらも速攻でくじけそうになったところへ―。 「お嬢さん、お困りですかな・・・?」 「あ、はい。ちょっと道をお伺い・・・って!?」 またもやタイミング良く現れてくれた町人Aの出現に、声も明るく振り向いて見れば―。 「ぼ、棒さん・・・?!」 「えへへへへ〜、僕もいるよ、お・ね・え・ちゃ・ん@」 「俺も・俺も! 元気そうだな、姫さん! 安心しちまったぜ、ったく〜!!」 見知った用心棒達三人に、ポカン、と目を丸くしてしまう。 「エ・エ・エ〜!? どうしてぇ!?」 「いや何・・・、姫君と我らとの縁が切っても切れなかっただけの事・・・。無論、それは赤い糸にて・・・」 「宗重さんについてきちゃった@ ほら、あんな急な別れ方だったし? それに・・・、もしかしたら困っているんじゃないかなって心配もしてたしね?」 ウィンクがてらの用三郎の台詞に、おもわずウン・ウン、とうなずいて。少女は叫ぶ。 「すごい、用ちゃん! ホンット、私困ってたのっっっ!!」 「やっぱな〜! 大野治基の奴、汚ねぇ真似しやがって・・・!」 「あ、いえ、心さん。治基さんは、結構イイ人っぽいんです。どちらかというと・・・、初姫さんの方が悪役率高いかも★」 「・・・・・は???」 三種三様の『おもわず』な声に、どこから説明したら良いやら・・・、と思いつつ。なるべくかいつまんで、用心棒達にもコトのあらましを説明する。 ― マンゴープリンの悪夢の下りについては、一同目が点になりつつも、異議のひとつも出る事無くして、結構スンナリと受け止められた模様―。 (というよりも、むしろ。束の間とは言え『本物の初姫』を知る彼らにとっては『あの姫ならやりかねないトコロ』だという納得のタメ息が一斉に噴出したくらいである。 更に―、未だに『マンゴー色の悪夢』にうなされてロクに眠れず、その反動を藩政の雑事を片付ける事にぶつけているらしい治基に、何となく同情票が集まったのも付け加えておこう) ・・・問題は。『マンゴープリン』などとは比較にならぬ、もうひとつの重要〜な事実に対する理解を得られるか否か、の一点に絞られた。 『信じられないとは思いますが・・・』との前置きと共に、紗依は深く息を吸って、なるべく分かり易いように―それでも手短に、それを用心棒達に解説する。 「・・・え? え? え? え〜っっっ!?」 「ちょっと、心は黙ってて! 後で、僕か棒がわかるように説明してあげるからっ!!」 途中からパニックに陥ってしまったらしい心ノ介に、キッと睨みを利かせつつ。用三郎が途中、一言で黙らせる。何とか一通りを語り終わるや・・・。 「―なるほど。」 「わかったのかよ、棒!?」 「まぁ、あれだ。ここにいる姫君は、実は姫君では無い・・・、一番単純かつ重要な点は、そこに尽きる。」 椿木泰乃丞の言葉に、うんうん、と。用三郎がうなずく。 「どどど、どういうこった!?」 「とりあえず、この『お姉ちゃん』は、この時代とは別の・・・、多分未来から来た『紗依ちゃん』であって、『初姫』では無いってコトだよ。」 「しかも、厄介な問題である事には―。精神だけがこちらに飛ばされており、肉体の方は真実『初姫』である・・・、というトコロだな。」 うむうむうむ、と。顎に手を添えつつ、感慨深そうに上空を仰ぎ見る、棒さん。流石、と。褒める前に、その口からこぼれ出て来た言葉の羅列に、一同の目が点になる。 「うむ・・・、なんという奇遇なる運命の采配―、まさにアメ〜ジングでアンビリバボ〜な展開・・・。 片や薄幸なる運命に翻弄される美貌の姫君、片や不可思議なる運命にこれまた翻弄されるミステリアスな乙女・・・。 運命は更に複雑怪奇に絡まりあい、今ここに―、敵味方の壁を越えたひとつのいわゆるイズムの問題を超越した、新たなる伝説が生まれでようとしているのだな・・・。 まさに! まさに、その歴史的瞬間に!! この椿木泰乃丞が導かれ立ち合う事になったというのも、縁の不思議―、まさに・まさにこれこそが『運命』! BGMは第九! 素晴らしい―! 実に素晴らしい!! これぞイリュージョン! ここに時空を超えた世紀のスーパー・グロ〜リアス・イリュージョンが・・・!!」 ― 既に、何をおっしゃられているのかが、遠すぎて分かりません★ 「もしも〜ぉし?」 「あ・の〜? 棒、さ、ん・・・???」 「あああああっ! わっかんねぇっ! わかんねぇよ、ぜんっぜん〜〜〜〜〜っっっ!!」 頭を抱えて地団駄を踏む心ノ介に、本当に珍しくも、心底同意して顔を見合わせてしまう残り二人。 ―『す●〜・ふぁ●や〜@』とか言って、誰か出て来たりしそう? ― え? やっぱ、ぷ●ん●す天●??? 「はっ! いかんいかん・・・、拙者とした事が・・・。」 不意に、戻って来る泰乃丞。フッ、と恥じらいらしい微笑を華麗なる面に浮かべながら、サラリ、と乱れた前髪を手で払う。・・・ビジュアル的には、完璧なくらいに決まっている。決まりすぎているくらいだ。 ― ホンット(性格も・外見も)いい人なんだけどなぁ★ 「つい、通りすがりの電波的メッセージに反応してしまった ようだ・・・。いや、面目無い。」 「電波・・・★」 「―受信料、払って無いモン拾うなよ★★★」 「いやいやいや―、まさしく世の中の不思議というのは奥深いものでな・・・、出会いを逃がさずキャッチ&リリースの絶妙なタイミングが・・・あ、いや、すまぬ。」 そこにいる全ての者の目が半目開きになっているのに気付いて、またもやどこかへ走り去ろうとしていた自分を、美貌の用心棒はあわや寸前で引き戻す事に成功したらしい。 ― ・・・一応、ここ一番では良識派で良かった・・・。 これも心底から思いつつ、紗依はタメ息ひとつついて―。 おもむろに、話題の方も引き戻しにかかった。 「え〜と、つまりですね? 今、私が困っている事っていうのは。」 「道に迷ってんじゃねぇの?」 ポリポリと、実に一番身近な問題を提示してくれた心ノ介に、 「それも正解ですが、とりあえず置いといて〜。」 「あ、置いとくの? 置いておいちゃうの???」 「でも、間違いでは無いんですよ? それも確かに困っていますから@」 残念そうに言った赤毛のサムライに、優しくそう告げながらも。 「でも、順位的にはもっと上位ランクに困っている事があるんですよ★」 「え〜と、やっぱり元に戻れない事?」 「用ちゃん、惜しい! でも、それはもう少し後に考えようと思ってるの。」 「単純に、どうこう出来る―、とも思えぬしな・・・。」 うんうん、とうなずきながら、とりを勤める泰乃丞に、視線が集まる。 「やはり・・・、ここまで来たら最優先事項は、アレであろう。」 「何だ・何だ!?」 「電波の意見じゃないよね? 棒の意見だよね???」 「全国配信・有象無象怪情報ネット・全天候型受信年間契約漏れなくお得となって・・・、いや、それは置いておいて。」 ちゃき、と。不穏な金属音と共に笑顔のままで発散される何か殺気にも似た気配に囲まれてコホン・コホンと咳払い―。 気分を仕切りなおして真面目〜に、告げられる台詞。 「やはりー、大野治基を納得させる、『身の証を立てる』コト―で、あろうな。」 「ん〜、そうか。そうだよね〜★」 「でもよぉ〜、んなの本当に必要なのか?」 素直に同意した用三郎に対し、今いち納得いかぬ様子でポリポリと頬を掻きつつ。心ノ介は実に不思議そうに尋ねる。 「話に聞くトコロじゃぁ、全然『初姫』と『紗依ちゃん』はまったく似ても似付かぬタイプの女の子じゃねぇか? その・・・、『大野治基』はさ、俺達以上に『初姫』さんと長いつきあいだってんだろ? しかも、すんげぇ頭もいいんだろ??? ・・・何で、そんなん分からねぇんだよ???」 「あ〜あ、ホンット、心は単純だよねぇ〜★」 大袈裟にタメ息ついてみせ、ポンポン、と。気の毒そうに相棒の肩を叩いて・・・。何故か一番『若い』用三郎が、実感込めて告げて曰く。 「話、聞いてただけでも予想出来るじゃん? 大野治基って、思い余って『暗殺』なんてのを企んじゃうくらい・・・、相当『初姫』にヒドイ目にあわされているんだよ? そりゃ、今の『紗依ちゃん』の外見が『初姫』だっていうのが一番のネックなんだけどさ? 今まで積もり積もった因縁にプラスして、一向に上向きにならない藩政もあるじゃん。 相当なストレスってのがたまりまくっていると思うよ〜? おまけに『初姫』は立場的に、上司になっちゃうんでしょ? 倒れそうな藩政を懸命に立て直そうとしながらさ、わがままな上司を立てて来た挙句―、その上司が更に藩政圧迫の原因になられてみなよ。 すっごい人間不信っていうか、女性不信にもなっているっぽいじゃん★ 騙されて・騙されて―、騙され続けて苦節ン年・・・、『初姫』の言う事なんか信じられるか〜、ってな思考回路が出来てたって不思議じゃないさ。 おまけに元から根が『真面目』なんでしょ? そりゃもう、反動すごいんじゃないかな〜? 神経性胃炎どころか、胃潰瘍とか持病になっちゃっていそうだよね〜。 うわ、僕までが何か―、気の毒になって来ちゃったよ。その大野さんって中間管理職の人★」 「でしょ・でしょ? 何か『ガンバレ大野さん』! 的になってきちゃうでしょ〜???」 「うんうん。とりあえず、その人間不信くらいは除去してあげたくもなってくるよね。」 「うむ―、一時的な心身喪失状態による犯罪を、未然に防げた今が確かに勝負時とも言えるだろう―。 むしろ―、今こそ、その心の病というか、人間不信を取り払った上で、正しく藩政建て直しに対して向き直る事が出来得るなら・・・。 我らとて、この一件に巻き込まれた甲斐もあったというもの・・・。そうではないか、心?」 「何か俺には、難しい事はよく分かんねぇけど・・・。」 それでも一生懸命に首を捻りながら、心ノ介は言う。 「そのさ・・・、『身の証』っての―? 『姫さん』が出来なかった事で、紗依ちゃんが出来る事ってのを見つけ出して、大野治基に見せればいいんじゃん? そうすりゃ、納得してもらえなくとも・・・、こんなに変わったんだ、って感じにならないかなぁ・・・???」 「心!」 「うぉ!? な、何だ、用っっっ!!」 眉間に皺寄せながらの台詞に、一瞬ポカン、とその顔を見つめてしまう一同―。 「心のクセに、すごいナイス・アイデアっ! それ、イイんじゃないかな?」 「うむ―、シンプル・イズ・ザ・ベスト。妙な小細工を弄するよりも、真心込めてのアプローチの方が、悲しいかなー、生活環境汚染されたとも思える気の毒な心の病に犯された者にとっては、癒しにも通じるかもしれぬしな。」 「そうそう! そういう事!!」 「そう・・・、そうよね!」 ― 流石は棒さん、イイ事言ってくれる! 少し前が見えて来た気持ちとなりながら、弾んだ声で無邪気に、紗依は尋ねる。 「で? 具体的には、どうすればいいのかしら???」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 ― 沈・黙―。 「・・・スミマセン★ それくらい、自分で考えなきゃ、ですよね・・・★★★」 その場に固まってしまった三人に、慌てて紗依はヒラヒラと手を振って見せる。ハッとしたように、口々に用心棒たち。 「いや、その・・・★」 「こちらこそ、申し訳ない★★★ まだそこまでは・・・」 「待って・待って★ と、とりあえずはさ、どこか行くトコあったんでしょ? そっちの用事を片付けてさ、そのついでといっちゃ何だけど、みんなで考えよう?」 ね? と。うつむきかけた紗依の顔を覗き込み、用三郎が言えば。力強くうなずいて、他二人も微笑みかけてくる。 「そうそ@ あんた、『姫さん』でも無いってのにさ、俺達と一緒にすげぇ頑張ってたじゃん? そんでもって、戦うのイヤだなんて言って・・・、あん時はさ、正直すげぇ驚いたし、呆れてたし、心配してたんだよな。 ・・・それがさ、何か敵のはずの連中と、ちゃっかり仲良くなっちゃってたりして・・・、しっかり、戦わないで円く治めようなんて頑張ってたりして・・・。 あんた・・・、紗依ちゃん? すげぇよな、ホント。俺だって好きで人斬ってたりする訳じゃねぇしさ・・・。もし、本当〜に、そんな事せずに丸く収まるってんなら、いくらでも協力してやる。っつーか、させてくれ!!」 「心さん・・・!」 「拙者も同じ思いだ、紗依殿。」 うんうん、と。うなずきながら泰乃丞も。 「仲良き事は良き事かな・・・。真実の意味での望月藩の再興を図るというならば、やはり禍根を断った上での力を合わせる土壌が欠かせまい・・・。 そのささやかなる手助けが出来るのであるならば、拙者とて及ばずながら力をお貸し申し上げたい。まして―、異世界より言われなくして強制的に招かれたかよわき女性が、そのような志を立てられたのだ・・・。 その手助けをせずして去るなどとは、拙者の美学にも背くことと相成る。それこそ、武士として、一人の漢としても恥というもの―。 ―紗依殿、是非とも拙者にも、貴女の大きな志達成の手助けをさせていただきたい。」 「棒さん・・・!」 「あ〜あ。二人とも、お堅いっていうか、理屈っぽいっていうか・・・。」 やれやれ、と。大きく肩をすくめ両手を広げて、呆れたように用三郎は言う。 「僕は別に、武士でも何でも無いからね。ただ、お姉ちゃんが頑張っている、その手助けをしたい・・・、それだけで十分な理由だよ★」 「用ちゃん・・・!」 「拙僧も手伝うぞい!!」 「げっ★」 突然現れた大きな影に、反射的に刀を抜いてバッサリ・・・。指先をひくつかせつつ、顔面から地面と『こんにちは』してしまった見覚えのある破戒僧の姿に、おもわず口元に手を当てて立ち尽くしてしまう紗依。 「モ、モンモン・・・さん、大丈夫ですか・・・?」 「放っておけ。どうせ、お前にかまわれたくてひと芝居打っているだけの話だ。・・・というか、やろうと思えばなかなか『早い』じゃないか、村雨心ノ介。」 「一刀斎!」 「一刀斎さん!!」 これも見覚えのある長身の眼鏡男の姿に、またもポカンと口を開けてしまってから。 「み、みなさん、今日は宗重さんの・・・?」 「てめぇ、いらん殺気出すなよなっ! つい、斬っちまったじゃねぇかよ! モンモンだから良かったようなものの、普通〜に大野治基の配下の奴だとかだったら、どーすんだよ! 可哀想じゃねぇか!!」 「それは、そいつの運のツキ以外の何者でも無いとは思うが・・・まぁ、良かろう。門倉紋山だと分かっていて、どうせ貴様も抜いて→斬ったのだろうからな。」 「ま、まぁ、そりゃそうだけどな・・・。」 「うわ、すごい反射神経。」 「パブロフの犬並だな、心。」 「え〜、そっかぁ〜? そんなにスゴイ? 俺って???」 「・・・そこで照れるのか、この男は・・・★」 ボソッとつっこんだ一刀斎の台詞に、心の中でうなずいてしまいつつ。誰一人として、まだピクピクと倒れたままの紋山の心配をしていない辺りに、タメ息。 ― 相変わらずだわ、この人たち・・・★★★ 「ちょっと・ちょっと!? 誰も、拙僧の心配はしてくれんのか? ひどくない? ひどくない、それっっっ!!」 「あ、あの、モンモンさん・・・★ 大丈夫、です、か・・・?」 地面に倒れたままの要求に、恐る恐る声をかけてのは、やはり紗依で。その言葉を耳にするや―、ガバァ、と復活した破戒僧。 「ガーハハハ! やはり、拙僧の心配をしてくれるのは、姫君ただ一人〜っ! やはり、拙僧への愛が違いますな!! それでは、再会の熱〜いキッスなぞを・・・っっっ!!」 「きゃぁっっっ!?」 「いっただきまぁ・・・@」 ― どぐわばきっっっ!! ・・・門倉紋山、そこに死す―、そんな立て札を立てなければならないような感じで、再び地に倒れ伏す大男―。 「ダメじゃないか、一刀斎。成仏エクスプレスの片割れなんだから、ちゃんとトドメを刺しとかなくちゃ。」 「貴様にダメ出しされる言われがあるとも思えんがな、不知火用三郎。勝手にコンビにするな―、むしろ、こやつは貴様預かりだと拙者は認識しておるぞ。」 「まぁまぁ、二人とも・・・★」 何故か、二人の仲裁に、珍しくも心が買って出る。 「ここは仲良く協力してだな・・・?」 「・・・うむ・・・。」 「トドメは忘れず・・・」 「倒れた後に、よく踏んでおかねばなりませぬな!」 「む、宗重さん・・・★★★」 突如現れたサムライ加えて、計五人+追加で一人―。倒れた紋山をめっちゃ土足で踏みつけ倒した後に―、なんだか爽やかな汗をかきかき、ニッコリと紗依の方を見る。 「もう、大丈夫@」 「・・・いえ、皆さん・・・、それ、かなりゲームが違いますから・・・★★★(ばい・ゾンビとお友達系?)」 そして、さりげなく混ざっている忍びの姿に、そっとタメ息を追加。 「霞丸さんも、お忙しくないんですか・・・???」 「ハ! そういえば、何だか見覚えの無い奴が・・・!」 「正面より相対し―、まともに名を名乗るは確かに初めてかもしれぬな。大野治基様が配下―、風魔霞丸だ。」 何気なく―、地に落ちたクナイを蹴り上げ手の内に納めつつ。平然と用心棒達に名を名乗ってみせた忍びの姿に、泰乃丞が興味深そうに視線を投げかける。 「ふむ・・・、追っ手を率いていた御仁か・・・。」 「あくまで俺は、治基様が命に従っておったまでの事―。勘違いは止してもらおう。 それよりも―、この女人は我が主預かりの大切な客人―。俺は、その身の護衛を命じられている。 たとえ旧知の仲であり、また望月の名代として来られた客人であったとしても・・・、無礼を働けば手痛い目にあっていただくのも止む無しと思し召しいただきたい。」 「冗談の分からぬ男じゃのぅ〜★ もう少しで、ケツに刺さるトコじゃったぞ、ソレ・・・★★★」 「刺さるようには投げておらぬ。無論―、それが望みとあらば北浜観光の思い出に、特別仕様で歓待せんでも無いが・・・」 ― チリン・・・、と。構えられたクナイを前に、遠慮します、と笑いながら。ススス、と門倉紋山の巨体が匍匐後退しつつカメラ視点から退いて行く。 「初姫様を、貴様何と心得る・・・っっっ!!」 一方、『姫』を『姫』として扱わぬ霞丸の物言いにムッとしたように。刀に手をかけ詰め寄りかけた宗重を、慌てて止めようとする紗依。 「だ、ダメですよ! 宗重さん・・・!!」 「しかしですな、姫・・・っっっ! っつ〜か、気づいてみれば何というお姿をなさっておいでですかっっっ!!」 突然。天変地異でも見たか、という風情で目をひんむき、顔色を失いながら、オーバー・アクションに後方によろめく宗重。 「おっとっと〜★」 そこへムックリと起き上がった紋山が、後ろから片手で支えてやる。―そうでなければ、驚きの余りに卒倒がてら、転倒していたと思われるくらい―。 ― 筑波宗重の浅黒い顔は、今や見事に顔面蒼白―。 「いかがなされた、宗重殿・・・?」 「おっさん、マジで顔色悪いぜ・・・?」 「まさか、風魔霞丸・・・!?」 「人聞きの悪い事を言うな。そこの坊主とて、クナイの柄で後頭部に投げ当てくらわせただけだ。こちらの方には、断固として何一つ危害を加えてなどおらぬ。 ・・・持病の癪でも持っておるのではないのか? クスリなら、いくらかの持ち合わせがあるが・・・?」 「うぉ!? あんた、本職は●山の薬売りかよ!?」 「いや、忍びとしてのたしなみと、治基様も存外腺の細い方ゆえ・・・、念には念を入れて、な・・・。」 「うっわ〜、ここに『お母ん』がおるっっっ!!」 「薬と毒と爆薬とは、やっぱり一通り持っておかないとだよね〜@」 「・・・忍びの常識とは物騒と背中合わせだな・・・★」 「長い物を自慢げに刺している連中に、言われたくないよ★」 「いや、ど〜でも良いが。ここ数日の間共に行動していたが、そのような話はとんと聞いてはおらぬぞ・・・?」 わやわやわや。にわか井戸端会議風になってきた中で、やっと、自分を取り戻した宗重は。目を爛々と光らせつつ、霞丸に向かって雄叫びまがいの台詞を叩きつけた。 「貴様ぁっっっ!! わ、我が藩の姫君を、何と心得るか!」 「む、宗重さん・・・???」 「姫も姫ですぞ! 何故に、このような遠隔地にて頑なに御逗留されておいでかと思いきや・・・! そのような、腰元とも、女中ともつかぬようなコスプレをなされて・・・!!」 ― ・・・コスプレ? 小首を傾げてしまいつつ、 「いえ、これ、一応仕事着なんですけど・・・★」 「ななな、なんとぉ〜っっっ!?」 叫んだ宗重は、更に貧血を起こしたようにふぅ、と額に手を当てて、倒れかける。今度は一体どんな点に過剰反応したのかが分からず、オロオロする紗依。一方、観戦モードとしか思えないその他ギャラリーは、いつもの軽口を叩いている。 「む、宗重さん・・・っっっ!?」 「おっさん・おっさん、大丈夫かよ〜?」 「どうでもいいけど、無意味に芸風に磨きかかってない?」 「それに関して異論は無い―、同感だ。」 「うむ・・・、拙者としては、もう少し押さえを聞かせた渋みのある演技の方が、かえってキャラ的に光ると思うのだがな。」 「・・・どうでも良いが、この男―、いつもこのような風なのか? 癲癇の発作持ちでは無く・・・???」 流石にウンザリしたような調子で尋ねた敵方の忍びの疑問に、一同そろって『無い・無い』、と。鼻先で手を振って見せる。 「・・・難儀だな。」 「うん、ま〜ね★」 同じ忍びの流れからか、こちらも気つけ薬らしき代物を、どうしようかな〜、と弄びながらの用三郎のタメ息に合わせて、宗重は再び復活した。 復活するなり、力こぶを作りながらの涙眼にて、紗依の前にひれ伏し、漢泣きに・・・、泣く。既に、号泣―。 「仕事着って、何の! 一体全体、この地で何の仕事をされていると言われますのかぁっっっ!!」 「え? えと・・・、お城の台所のお手伝いとか? お掃除とか・・・???」 ここまで来ると、何を言っても聞いてもらっているのかどうかが分からないなぁ、などと思いつつ。努めて笑顔を作りながら、恐る恐る答えられた台詞に・・・。 「うぉぉぉぉぉぉっっっ!」 ― 漢泣きに泣きながら、吼える、サムライ・・・。 「おのれ、大野治基ぉっっっ!!」 ―怒号と共に天を仰ぎ、筑波宗重、絶叫・・・。 「如何様な手を使って当藩の姫を、こんな良妻賢母タイプに調教・・・もとい教育しおったのかぁ! 是が非とも、その辺の秘法の伝授を・・・っっっ!!」 ― 途端に感じられる、すさまじい、殺気―。 そこにいた者すべてが感じ取ったそれに続いて、天から突如振り下ろされる、謎の物体・・・。 ― すっぱぁぁぁぁぁんっっっ!! 「・・・あ、煙吹いてる・・・。」 ― 筑波宗重、三度死す(いや、未遂だが)―。 「ちょ、超常現象というか、天罰は実在したというか・・・。」 「―滅多なコトは、口に出すな、という事であろうな・・・。」 「せ、拙者は何も見なかった。巨大なハリセンなどは、決して見なかったからな・・・っっっ!!」 「ナンマイダブ・ナンマイダブ・・・★」 「だだだ、大丈夫でしょうか、宗重さん・・・★★★」 「大丈夫だ―。激しいツッコミなれど、ギャグで死んだ奴は滅多におらぬ・・・。」 ― そうじゃ・そうじゃ! 『口は災いの元』、『災いは忘れた頃に降ってくる』、じゃ!! 「・・・ん???」 不意に。静まる―、場。何か・・・、聞き覚えのあるような無いような声が、混ざっていたような・・・??? 「む・・・?」 「あ、宗重さん! 大丈夫ですか!?」 後頭部を押さえつつ、キョロキョロしながら起き上がった宗重に駆け寄った紗依。それをキョトン、として見つつ。彼は言う。 「いや、勿論まだまだ大丈夫でござる。いや確かに少々、不覚を取り申したが・・・。 塙殿直々のご鞭撻による初姫様の力強いツッコミ技なれども・・・、まだまだこの筑波宗重、姫の嫁入り姿を拝見するまでは、負けてはおられませぬからな!」 「・・・・・・え???」 ― 再び、沈黙―。 「それに致しましても・・・、いや〜。ハッハッハッ! 久々のハリセン・ツッコミ、恐れ入りました。随分と技に磨きをかけられたご様子―。 天から巨大ハリセンでツッコミとは、いやはや―、宗重もうかうかしてはおれませぬな、誠に! 一瞬だけとは言え、綺麗なお花畑を駆け足ツアーで拝見して参りましたぞ!!」 「・・・・・・。」 一同から発せられる、無言の眼差しを一身に受けながら。にわか、ふるふるふる・・・、と。身を震わせる紗依―。 泣いているのか・・・、と。おもわず顔を覗き込みかけた霞丸の目が、ギョッと見開かれる。 ― こ、これは・・・!! ・・・いつぞやか、地下牢にて感じられたオーラ、再び。 地響きを伴うような、急激なるその場の雰囲気の総入れ替えに、用心棒達も少なからず異変を感じ取った模様―。氷点下を思わせる急激な冷え込みにも似た寒気を覚えながら・・・、その原点に立つ少女の姿を新たな眼差しで、凝視―。 紗依は・・・、天使の如き微笑みを宿した愛らしい顔にて、天を仰ぐ。 「そう・・・、そう、なのね・・・。」 「さ、紗依・・・?」 「お、お姉ちゃん・・・???」 「ひ、姫・・・・・・???」 気遣う霞丸・用三郎・宗重グループは、そのまま金縛りにあったような己れの身に、冷水を浴びせられたような感覚になりつつ―。 ―視線は、姫君にシッカリと固定―。肝心の姫君の方はと言えば・・・。 『うふふふふふふふふふ@』という感じで、あくまでも可愛らしい〜笑顔を保ったまま。その放つ気配は、完璧に戦闘モード・・・★ ― ・・・う、動けない・・・・・・! 果てまた、一方―。金縛り状態こそ免れているものの、 ― 外面如菩薩・内面如夜叉―。 少々違う気もするが、何だかそんな感じの雰囲気に気圧されつつ―、顔を見合わせるばかりの、棒・一刀斎・紋山グループ・・・。 そして。何故か意外や意外―。姉妹がいる、という境遇によるものなのか、一人キョトンとしてその場に立ち。完璧、状況に乗り遅れていた心ノ介も、次の紗依の一言で、ようやく一同と足並みをそろえる。 「・・・みなさん・・・@」 「はい!」 ― 何故だろう―、少女の背後に明王様が見える・・・★ ― ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・! 背後に後光とみまごうオドロ線を背負った少女は、小悪魔的な笑みを浮かべたまま、どこからか取り出したるアンケート用紙をおもむろに配り始めた。 「初姫が、決して出来ない、しかも治基さんに、納得度百%を約束するような『身の証』案を、速やかに記入・提出して下さい・・・ネ@@@」 「はい!」 知らず、背筋を伸ばし、その場に正座して。良い子のお返事となってしまう用心棒他の面々―。ニコニコしながら、天使の威圧で紗依は告げる。 「はい、カンニングはダメですよ〜@ 出来るだけ、自分で考えて下さいね〜@ 特に霞丸さん、治基さんの好みもよく思い出しながら、たくさん書いて下さいね@ モンモンさん、エロは禁止@ 全年齢対象ですからね@ 一刀斎さんも、Z指定は禁止ですよ〜@@@ では、始めて下さい@ その間、私は用事を済ませて来ますから@@@」 「行ってらっしゃいませ〜@」 パチン、と。 紗依が指を鳴らすなり、サッと控えながら現れる風魔の下忍。 「道案内、ヨロシクお願いしますネ@」 「はっ!!」 颯爽と立ち去るたおやかな後ろ姿に、おもわず大きく深い吐息をつく一同―。 ・・・去っていく背は、ある種の冒しがたい決意を物語っていた。 ―『初姫』なんかと一緒にされてたまるもんですか(怒りゲージ百%) ―そして。残された男達の心の内に一陣の寒風のようにテロップとして流れていく、その隠された思いはひとつ―。 ― ここに女王様がおられる・・・★ ― あとは黙々と、アンケート用紙に取り組む謎の集団が、北浜城下に在ったのであった・・・。 |