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「久しいのう! 皆、息災で何よりじゃ!!」

「姫様! まったく、何のお変わりも無いのは、良いのか悪いのか・・・・・・★」

「良いに決まっておろう! まったく爺も変わらぬのう〜。もっと老後をエンジョイせいっっっ!! 人間五十年、その後は目指せ・百歳・百歳、じゃ!!」

「そこまで長生きせねば、姫様のお子の顔が拝せ無いのでありますかなぁ〜???」

「これ! まったく、年寄りは恥じらいを失って困るぞ!」

「姫っ! 姫の口より恥じらいなどという言葉が出るとは・・・っ!! いや〜、年を取って耳を疑う言葉が多くなって困りますなぁ〜★★★」

「・・・隠居させられたからと、根に持つな。爺はいい加減、もっと自分を見つめ直し、後続を育てる事に心を砕くべきであろうが!」

「正論すぎて、爺には何が何だかわっかりましぇ〜ん!!」

「ぬぅっ! 金●ネタがゲームで通ったからと、●田●也ネタなら何でも許されると思うなっ!
 というか、そういう放送コードにひっかかるようなネタは扱いが面倒じゃ! 祭の間は却下だ、却下っっっ!!
 ―さもなくば、宗重同様反省させるぞ!!」

「・・・宗重さん?」

 懐かしい姫の姿におもわず笑顔になり。続いて展開された主従漫才の成り行きに、段々と硬直してきた笑顔に、とうとうヒビを入れながら。

 一行代表―、用が一応『お子様』らしくオズオズと、尋ねると。ああ、と我に返った初姫が告げるに。

「あやつ、夏の暑さに脳みそが膿んでおったのか、戻って来るなり危険なネタを披露しそうになってな―。とりあえず、この北浜城に手頃にあった地下牢に隠蔽してみた。
 まぁ、この気候であるし―、一晩放り込んでおけば、程よく冷えて良いだろう。まぁ、それは置いておいて・・・。」

 アッサリと横に退けられてしまった話題を、これ以上追及するような無謀な者はここにはおらず。ニッコリ微笑み、手にした扇子をはためかせながら、栗色の髪の姫君は告げる。

「皆、よく集まってくれたの。あの騒ぎの後―、崩れた天守閣の修繕及び城の改築も滞りなく済んだのでな。今年はその祝いも兼ねて、盛大に祭りを執り行う事にしたのだ。
 それに際して、当家の新しい目付け役の案も取り入れて―折角の面白ネタをみすみす放置する事もあるまいとな、天守閣倒壊に至るまでの『架空の話』を寸劇化し、祭りのメイン・イベントにしてみた。
 でな。役者の手配もまだ至らず―、どうせなら、まずは当事者にやらせて見ようと思い立って・・・・・・」

「え〜と、姫さん・・・???」

「なんじゃ、心?」

「話が読めねぇんだけどな、その『架空の話』って・・・?」

「―当家目付け役・大野治基が謀反を企み、こともあろうに初姫様のお命を狙い、その領内にて忍びを使って決死の暗殺を試みたー、という『架空の話』、だ―。」

「って、それ! めっちゃ実話じゃねぇ・・・って、あんた誰???」

 さりげなく、初姫達の傍らに控えた一人の男―。痩せた顔だがなかなかの美形で、実は顔で重臣を選考しているのではないかという疑惑を持たせるような、なかなかの渋い声。

「・・・分からぬか?」

 面白そうにそう言うと、結っていた髪紐を外し、軽くウェーブのかかった髪を軽く揺すってみせる・・・と。長さはかなり短くなり、来ている物も以前に比べてかなり日本風になっているものの・・・。何となく、見覚えのある感じに。

「・・・・・・・・・!? お、大野治基・・・っっっ!!」

「うむ。なかなかの記憶力だな―。その節には、いろいろと迷惑をかけた。すまなんだな―。」

「めめめ、迷惑だとかいうレベルの問題かよっ! おい、姫さん、こいつは・・・・・・!!」

「・・・まさか、お家の為の狂言であったとでも・・・?」

「莫迦を言え! そのような酔狂な真似をする為に、わざわざ未来から紗依を呼び寄せ、無理矢理危険な目に合わせなどするものか!!」

 血相を変えて立膝となった姫君の雄雄しい姿に、思わず目を逸らす男共―。

「いや、拙者の失言でありました・・・。」

「? 謝罪するなら、ちゃんと相手の目を見て申せ! 武士たるもの、目線を逸らしていかがする、棒っっっ!!」

「いや、姫様、その・・・・・・★」

「初姫ちゃん・・・、着物でその足は、流石にちょっと★」

「! お姉ちゃん・・・っっっ!?」

 初姫に似た、そして似ていない柔らかな声に。嬉しそうにそちらに駆け寄り、抱きつく用三郎。

「会いたかった〜@@@」

「え、あ、うん@ 私も・・・。」

「紗依!?」

「紗依殿・・・っっっ!!」

 つられてそちらを向いた男共に、謎の紅白の(硬い)餅が投げつけられる。

「ま・だ・見・る・な・・・・・・っっっ!!」

「し、失礼・・・★」

「っつ〜か、見やしねぇって、姫さんの方は・・・」

 ―ぎぬろんっ☆ すさまじい殺気と共に、心ノ介の方へ初姫の笑顔が・・・。

「・・・お主もどうじゃ・・・? 北浜名物、地下座敷牢@シナリオによっては、紗依も一晩を明かしたという由緒ある牢屋だが・・・?
 今ならもれなく、当城のア●ゴ●ンこと筑波宗重との涼し〜い一夜もついてくるぞぉ〜@@@」

「や、すっげぇ遠慮だから。宗重さんの寒すぎる親父ギャグで折角の一晩を無駄にしたくないし〜★★★」

「う〜む、正直な奴じゃのう〜。ま、軽〜い冗談じゃ@」

「流石は姫―、監督・脚本と兼任されるだけの事はございますな。この治基―、今回の初回公演より末永く―、姫のアイデアてんこ盛りの『望月城天守閣物語』が、当藩の財政立直しの重要な礎として、観光地北浜の名と共に語り継がれる事をゆめゆめ疑っておりませぬぞ!」

「そうじゃな! 何せ紗依の時代の祭りですら伝統行事となっていた代物じゃ! 確証バリバリ! 皆の者、そういう次第なので―、台本をしっかり読んでおくように!!
 開始は夜だからなー、あ、間違っても逃げようと思うな。この国には、優秀〜かつ藩思いの忍びがそこここにおるからのう・・・、霞丸?」

「御意―。」

「勿論、用心棒を雇うのだ。タダとは言わぬー。滞在中の食費・宿代等はこちら持ちであるし、報酬もいくばくかは用意させてある。
 おまけに、今回の初演記念碑には名を明記させるし、今後も当藩ではVIP待遇とさせてもらう予定だ。救藩の徒、としてな・・・?」

 悪くはあるまい、と。片眉上げての治基の台詞に、いつも通りの冷めた声で一刀斎。

「随分とまた、初姫やら藩やらに対して忠誠値が上がっているようだが・・・。何故、貴様がここにいるのか―説明がまだ為されておらぬな。」

「話は単純この上無い。」

 ふ、と笑みを浮かべ、髪を元通りに束ねてから、治基。

「倒壊した天守閣から・・・、奇跡的にも、私は生還した。初姫がお戻りになり、天守閣の再建の為の視察に赴かれた際に・・・、虫の息であった私を見つけ、手厚い看護によって勿体なくも、再びこの城に息づく事を許された―。」

「褒めすぎじゃ、治基。姫にも悪い点が多かった。それを話し合いながら、この三年―。段々と望月藩が復活してきたのは、他ならぬ治基の手柄ぞ!」

「姫、勿体ないお言葉でございます! この治基、残った生涯すべてを姫の為に投げ打ちて、お仕えする所存・・・!!」

「その意気じゃぞ、治基っ! 他藩の手助けなど当てにする事は無いっ!! 望月には望月の心意気があると、天下に知らしめるのじゃ〜@@@」

「姫っ! 一生ついて行きまする〜っっっ!!!」

「―まぁ、ってな感じで・・・★ なんか、すっごいラブラブ状態になってたり???」

「まぁ・・・、治基様は元より、結構〜貢君・尽くす君の要素がありましたゆえ・・・。」

 何だか平和だわ〜、という感じで片頬に手を当てて、アンニュイな感じに微笑む紗依と。

 『かつての主』を生温かく見守りながらの、霞丸の台詞に、ただうなずいて見せる客人達。その間を、何だかこれも見慣れぬいかついながらも痩身の男が台本と書かれた冊子を配り歩く。

「あ、ども。」

「かたじけない―、ちなみに、どこかでお会い申し上げましたかな・・・?」

「は、三年前に―。」

「というと、やはりあの事件で・・・?」

「一応―。」

 注目を浴び、少し居心地悪そうにいる男に。少し可哀想に思ってか、紗依がつつつ、と前に出る。

「えーと、改めてご紹介しますね。こちら、治基さんの弟さんー、大野信正さんです@」

「・・・・・・おおの、のぶまさ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

 色黒の、とても兄弟とは思えない感じの、男・・・。長槍の名手として、城に至る道への最後の砦として、一同の前に立ちはだかった男の変貌に、一同―。

「えーっっっっっ!!???」

「っつーか、何でっ! キッチリ死んでたじゃん!?」

「拙僧なんか、骨ポッキリとヤっちゃったよ、確か!?」

「俺だって、俺だって! 必殺技出して、折角の刀ボロボロにまでしちまって〜!!??」

「・・・っていうか、さ。」

 突然、冷静〜になるや。用三郎が、ビシ! と霞丸の方へと指先を突きつける。

「こいつがそもそも―、死地から復帰・腕もきっちり戻って再復帰してるくらいじゃん?」

「そういえば・・・、人間こそ止めていたものの、某連中もちゃっかり再出演していたような気も・・・?」

「実は、『用心棒』って―、何でもあり・・・?」

「何を今更ごちゃごちゃと・・・★」

 呆れたように、話に割って入ったのは、初姫で。

「何でも―、では無いであろう? 魔女っ子初ちゃんの力にだって、叶う願いと叶わぬ願いが、ちゃんとある!
 第一―、何でもかんでも叶ってしまっては、バランスというものが崩れてしまう。世の中というものは、バランスが大切なのじゃ。」

「うむ―、初姫も、なかなか良い事をおっしゃる。」

「当然じゃ。姫は世の為・人の為・藩の為、何より姫の手の届く者達の為、いつでも努力に努力を重ねておるのだぞ!
 ま、とりあえずは、今回の騒ぎに関わった連中限定でな。信正とて望月藩の重臣じゃ。一人除外というのも忍びなかろう―。ちょっとした外見の修正くらいは、ご愛嬌じゃ@」
 ― ちょっと待て、と。チロッと舌を出して見せた姫君の顔を、おもわず見てしまう一同―。

「ん? なんじゃ?」

「え〜と、質問?」

「なんじゃ、紗依。」

「参考までに―、初姫の出来ない事って・・・?」

「そりゃ〜、全キャラ・ハーレムENDに決まっておろう?」

 ― 沈黙―。言葉を失い赤面しうつむく紗依から、そっと男達の目が外される。それを逆手に取ってか、ヒソヒソ乙女の内緒話になだれ込む初姫。

「流石の姫も、ゲーム・システムに差し障るような真似はのう★ まぁ、良いではないか@@@ いっそのコト、このままこの世界に『嫁入り』してしまえ、紗依@@@
 そうすれば、『なんちゃってハーレム・エンディング』くらいは可能であろう〜?」

「どどど、どうやって・・・★」

「だから〜、姫と二人でな、この城に留まって〜、連中に登城義務をおっつけておくのじゃ@ そうすれば、城にいる間はデートし放題じゃぞ〜?」

「何かそれって初姫ちゃん・・・、心無しか、すっごい悪代官的発想っぽいかも・・・★★★」

「何でじゃ。姫はいつでも正義の味方・夢見る乙女の強〜い味方じゃぞ〜@ ま、それはそれとしてじゃ。宗重をそろそろ呼んできて夕餉にするとしよう@」

「夕餉も良いが・・・。」

 関わりたくない展開から目を逸らし、黙って台本をめくっていた用心棒達の中から、一刀斎がポツリ、と声を上げる。

「何だ、この『台本』とやらは?」

「『台本』と言えば、『台本』であろうが。何じゃ、失礼な奴じゃのう〜。」

「いや、表紙に記された文字に関してはどうでも良いが」

 辛口の声で、眉間に皴を寄せて続けて曰く。

「『夜・北浜城・宗重・紗依』・・・まぁ、それは良い。それは良いが、何だ、『これ』は・・・?」

「見ての通りじゃろうが。なぁ、紗依?」

「ええ、まぁ、そう、ですよねぇ〜???」

 あまり深くはつっこみたくない、という様子で明後日の方を見る紗依。『思い出せ(アドリブ)』―。更に、用三郎。

「うわ、これって本っ当〜に、劇の台本っ!?」

 ピローン、と広げられた本の右端には『前頁より』左端には『次頁へ』真ん中当たりには『(アドリブ)』・・・★

「各自―、思い出に基づき自主性に従って・・・どうにかせよ、という究極の形―、とも言えますかな・・・★★★」

 ビロ〜ン、と。これまた本を見ないようにしながら広げて棒が呟けば。

「流石は棒! 良い事を言うの〜@@@」

 ―『活劇。盛り上がらなければ減俸必須。おひねり上等、後程配当のこと』―。コホン、と。更に真剣に尋ねるに。

「・・・で―、温泉のセットも、ひょっとして・・・」

「勿論、丁重〜に用意済み―、ご安心めされい。」

「ちょっっっ・・・っっっ!?」

「案ずるな紗依@ 放送規定にひっかからぬよう、姫がシッカリ! 目を光らせておるからの@@@」

「・・・って、初姫が出るんじゃないのぉっっっ!?」―



 ―後の歴史は、こう語る―。望月藩は幕末の財政難を観光で乗り越え、この地の伝統芸能劇の礎を築いた。この劇は身分や時代の壁を越え、参加者による柔軟な話運びと阿吽のやり取りが、今でも楽しまれている・・・。 (どっとはらい)






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