「レイン、お願い!」

 陽だまり邸でのとある日。
 その日は皆がちょうど出払っていて、屋敷にはレインとアンジェリークしかいなかった。
 ころあいを見計らったかのようにレインの部屋を訪れたアンジェリークは、いきなりそんなことを言い出した。

「はあ? いきなりどうしたんだ」

 なにやら研究をしていたらしいレインは、顔を上げると当然ながら訝しげな表情を浮かべた。
 机に散らばった資料そのままに、アンジェリークのほうに体を向ける。

「何かトラブルか?」

 心なしか青ざめてはいるが、真面目な顔をして問いかけるレインに、アンジェリークは少し罪悪感を覚えた。
 オーブハンターの仕事ではない。
 その手の頼みだったらどんなに頼みやすいだろう。

「あ、あのね・・・」

 来たときの勢いはすっかりしぼんでしまっていたが、ここで帰ればまたあの二人に色々と言われてしまう。
 ともすると沈んでいく心を何とか保ちながら、意を決してアンジェリークは本題を切り出した。

「あのね、ハンナとサリー・・・って、私の友達なのだけど、二人が今、ケーキ屋さんでアルバイトを始めたらしいの。だから、一緒に見に行かない? あ、勿論私がおごるわ」

「ケーキ屋・・・」

 その言葉にレインの目が輝きだした。
 甘党の彼のこと、返事はあっさりしていた。

「オーケーだ。ただし、おごりはなしだぜ」

「ありがとう」

 何の疑いもなく嬉しそうなレインの顔を見ながら、誘い出すことに成功しつつも、アンジェリークは複雑な気持ちだった。




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