・・・どうして気づかなかったのかしら。
 
 たらり、とアンジェリークの背中を冷たい汗が流れていった。
 夕飯も済ませた。
 お風呂も入った。
 あとはもう寝るばかり。
 そんな状況になって、ようやく気づいたことがある。
 
 ――――もしかしなくても、その・・・寝るのも、一緒ってことよね。

 エレボスの危機を越え、女王になることをやめたアンジェリークは、ベルナールのもとへ戻ってきた。
 そのままベルナールの奥さんになることを決めたのだが、お互い色々準備もあって、ようやく今日から一緒に住み始めることになったのだ。
 お風呂を済ませて寝室に向かうときになって、初めてアンジェリークはひたと足を止めた。

 ・・・昔じゃあるまいし、結婚したら、寝るときも一緒は良いとしても、その・・・寝るだけではすまないわよね。

 「兄さん」と呼んでいたときはともかく、今はただの親戚同士ではなく、夫と妻という関係になったのだ。
 寝るだけですまない確率のほうが高いのではないだろうか。
 
 ・・・ううん、でも、ベルナールさんは大人の男の人だもの。いきなりそんな・・・。

 そんな、といってその先を想像したアンジェリークは顔を真っ赤に染めた。
 変なことを考えるのではなかったと、何度も頭を振る。

 私のばかばか。私とベルナールさんが、そんな・・・。

「アンジェ?」

「はっ、はいっ!?」

 不意に背後から声をかけられて、アンジェリークは思わず背筋をピンと伸ばした。
 そっと振り返ると、悩みの種の人物がにこやかに立っていた。

「どうしたんだい?」

「い、いえ。何でも・・・」

「ん・・・?」

 必死に視線をそらすアンジェリークをどう思ったか、ベルナールはそんな彼女に顔を近づけた。

「あっ、あの・・・」





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