聖なる夜

2‐2


「アンジェリークではありませんか」

「え?」

 音楽室の前を通りかかったとき、準備室から見知った顔があらわれて、アンジェリークは目を見開いた。

「エレンフリートさん! どうしたんですか、こんなところで」

 予想外の人物の登場だったので、胸がドキドキ鳴っている。
 それはどうやら向こうも一緒だったらしい。
 眼鏡を押し上げながら、一つ咳払いをして、表情を改める。
 以前会った時と同じ、ぴしりと制服を着込んでいる。
 しわ一つない制服は、生真面目な彼の性格がよく表れていた。

「あら?」

 続いて準備室から出てきた人物に、さらにアンジェリークは目を丸くした。

「ジェットさんに、ヒュウガさん!」

 二人とも前回のイベントで知り合いになった、用務員と教師だった。
 ジェットは相変わらず黒づくめの服装であるし、ヒュウガも以前と同じ、スーツ姿だ。
 メルローズ女学院のイメージとは大きくかけ離れている。

 その二人まで何故?

 すると、驚きもなかったのか、表情一つ変えずに淡々とジェットが答えた。

「我らはクリスマスパーティで使う、楽団の楽器を借りに来た」

「楽団? 楽器?」

 言われてみれば、エレンフリートは手ぶらだったが、ジェットやヒュウガはそれぞれ、大きな楽器ケースを抱えている。

「クリスマスパーティで、カルディナの有志の生徒が演奏会を開くのだが、足りない楽器があってな。そちらの理事の了承を得て、楽器をいくつか借りに来た」

 ヒュウガの説明でようやく納得できた。

「なるほど。それでここにいたんですね」

 アンジェリークは高鳴る胸を必死に落ち着けながら、それを気付かれないようにうなずいた。

 ――――ホントに会えた。

 もしかしたら、という思いを抱えながらふらふら歩いていたアンジェリークは、再会が果たせたことにこみ上げる笑みを抑えられなかった。

「あなたはどうしたのです?」

「え? あ、私はその、ええと・・・校舎の見回りに」

 言っていて自分で、そんな馬鹿なと思ったが、それ以上言葉が出なかった。
 しかし、三人はそれ以上突っ込んでは来なかった。

「まあ、せいぜい楽しみにしておいてください。我々が企画にかかわっているのです。あなたを楽しませることなど、造作もないことですよ」

 自信満々にそう言って、エレンフリートはすたすたと歩き始める。

「エレンフリートは今回、非常に気合が入っている。イベントを成功させるために動いているのだから、俺もできる限り協力するつもりだ」

 ジェットは相変わらず平坦な声だったが、どうやらクリスマスパーティを成功させようと動いているらしい。
 用務員でも、やはり学校のことが気になるのかなとアンジェリークは思った。

「ではな、アンジェリーク。パーティでまた会おう」

 薄く笑いながら、ヒュウガも重そうな楽器ケースを抱えて、先を行く二人のあとを追っていった。
 三人の後姿を見送っていたアンジェリークは、背中が見えなくなったところで、

「やった!」

思わず小さなガッツポーズをした。








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