聖なる夜
3
「ねえ、アンジェ。クリスマスパーティには、どんなドレスを着ていくの?」 いよいよクリスマスパーティを二日後に控え、浮かれた空気の漂うメルローズ女学院のとある教室。 次の授業が始まるまでの休み時間に、サリーが弾むように話しかけてきた。 「この間のダンスパーティでは、確かラベンダー色のドレスを着ていたわよね。今回も同じものを着るの?」 「え? ええ。そのつもりよ。私はあれしかドレスがないもの」 「まーったく! やっぱりあなたはそんなつもりだったのね!」 サリーはずいと顔を近づけてきた。 急に目の前に迫ってきたので、アンジェリークはびっくりしてのけぞってしまう。 そんな二人に、おっとりとした声が降りかかる。 「実はね、あなたに私たちから一足早いクリスマスプレゼントを用意したのよ」 「クリスマスプレゼント?」 目をぱちくりさせるアンジェリークの顔がおかしかったのか、もう一人の友人であるハンナは、くすくす笑った。 「驚いてくれたかしら。実は放課後、近くの仕立て屋にドレスが出来上がっているはずなの。一緒に行きましょう」 「えっ、で、でも、それは・・・」 そんな高価な物をもらうわけにはいかないと、手を大きく振るアンジェリークの手を、サリーとハンナは片手ずつ握る。 「良いのよ! 私たち、いつもアンジェにはお世話になっているもの。こんなときくらい、お礼をさせて頂戴!」 「ええ。それに、私たちもあなたに着てもらえたら嬉しいわ」 「サリー、ハンナ・・・」 胸が詰まって、それ以上言葉が出てこない。 「なあに、アンジェ。泣いているの? 大げさなんだから」 サリーは明るく笑いながら、アンジェリークの頬をつついた。 その隣から、ハンナがそっとピンクのハンカチを差し出した。 「じゃあ、授業が終わったら、校門のところで待ち合わせしましょう?」 「ええ」 ハンカチでそっと目元をぬぐいながら、アンジェリークは心の中で二人に感謝をした。 ついに、ウォードンの劇場でクリスマスパーティは始まった。 前回はホストする立場だったので、当日の流れは事前に分かっていたのだが、今回は何が起こるか分からない。 事前に詳しく企画の内容を知らされていないので、楽しみは一層膨らんでいる。 劇場内は、正装したメルローズとカルディナの生徒たちであふれていた。 どの顔も笑顔にあふれている。 どれだけこのパーティを楽しみにしていたかがよく分かった。 「どんなパーティになるのかしら。楽しみね!」 鮮やかな緑色のドレスに身を包んだサリーが、上気した顔でそう呟くと同時に、会場が真っ暗になった。 ステージにライトを当てられたのは、カルディナの理事長、マティアスだった。 「みなさん。お集まりいただいて、ありがとうございます。今日は楽しんでくださいね」 簡潔な挨拶の後、ゆったりとした音楽が流れ始める。 と同時に、周りがだんだんと明るくなっていった。 「では、皆さん。グラスをお持ちください」 マティアスの言葉とともに、皆がそれぞれ用意されたグラスを手に取る。 そろったことを確認して、静かに、だが高らかに言った。 「乾杯!」 その声とともに、パーティは本格的に始まりを迎えた。 当日の企画が一段落し、まったりとした空気が流れ始めた会場内。 そんなとき、突然マティアスが再びステージに上がった。 「では、ここからは秘密の企画の時間です」 彼は思わせぶりな口調でそう切り出した。 何が始まるのだろうと皆が集まる中、彼の補佐役として企画を進めていたルネが、箱を二つ荷台に載せて押してきた。 「ここには、番号の書かれたくじが入っています。それを、一つずつお取りください」 「ふふっ。その番号が、プレゼントの番号を示しているんだ」 え? という顔の生徒たちの背後から、いつのまにか大量のプレゼントが運び込まれていた。 きれいにラッピングされた大小の包みに、皆から感嘆の声が漏れる。 「中身は男女で違うからね。さあ、僕たちからのプレゼント、受け取って!」 その言葉とともに、用意された箱の近くにいた生徒から、くじを引き始めた。 「ねえ、アンジェ! どんなものがあるのかしら?」 「くじ、というのも珍しくて楽しみだわ」 はしゃぐサリーとハンナに手をひかれて、アンジェリークも列に並ぶ。 順番が来て箱に手を差し入れた時、 「ねえ、アンジェリーク」 ルネがこっそり声をかけてきた。 「ボクからのアドバイス。キミの大切な人の顔を思い浮かべながら引いてごらん。きっと、願いはかなうよ」 「わかりました」 ルネの言葉に後押しされて、アンジェリークはある人物の顔を思い浮かべた。 ――――よし! 深呼吸して、思い切って一枚引いた。 |
あら、外へ出ていったわ。 |
楽しいパーティだったわ。 |
どうしたら良いのかしら。 |
素敵な舞だったわ・・・。 |
どうしてもあの人に会わなくちゃ! |
あそこにいるのは・・・。 |
あの方にお礼を言わないと! |
どうしたものかしら・・・。 |
あの人の姿がないわ。 |
あ、また女の子に話しかけて・・・。 |