聖なる夜

2‐4


「この辺で良いかい?」

「うーん。そうだね、大丈夫」

 エントランスに出ると、大きな掲示板の前に見知った顔を見つけたアンジェリークは、はずむ心をそのままに、二人の名前を呼ぶ。

「ジェイドさんと、ベルナール兄さん!」

 アンジェリークの声に、二人は振り返った。

「やあ、アンジェリーク。久し振り」

「こんにちは。制服姿もチャーミングだよ」

 二人は向いていた掲示板から、体をアンジェリークに向ける。

「二人とも、どうしたんですか?」

「うん。クリスマスパーティのお知らせを貼りに来たんだ」

 ジェイドはそう言い、今貼ったばかりのポスターを指した。
 そこには、穏やかな白地に、シンプルなクリスマスツリーと、赤と金の字で、「クリスマスパーティ」という字が書かれている。
 詳しい日程も、その隅にあった。

「わあ! 可愛い」

「そう? それは良かった」

 なぜかベルナールがにっこりとほほ笑んだ。
 首をかしげていると、ジェイドが答えをくれた。

「そのお知らせ、ベルナールが描いたんだ」

「え!? 兄さんが?」

 びっくりしてベルナールの顔をまじまじと見る。
 親戚のお兄さんに、こんな特技があったとは知らなかった。

「そう言えば、兄さんは生徒じゃないし、ジェイドさんは購買の人なのに、お二人もクリスマスパーティにかかわっているんですね」

 意外な感じがした。
 理事クラスのマティアスや、生徒が企画にかかわっているのはわかるが、教師や、まして購買部の人間までも手伝っているのだ。
 カルディナ側が一丸となって、この会を成功させようとしているのが伝わってきて、アンジェリークはほんのり心が温まった。

「俺たちにもできることはあるからね。あ、俺は後、当日とびきりのスイーツでみんなをもてなすつもりだよ」

「わあ、素敵!」

 以前のダンスパーティの時にもジェイドお手製のお菓子を食べたが、あんなにおいしいお菓子は初めてだった。
 思わずアンジェリークの顔がほころぶ。

「やっぱり女の子だね。君は小さいころから甘いお菓子が好きだったから」

「も、もう、兄さんたら。また子どもっぽいって思ったでしょう?」

 昔を懐かしむ口ぶりのベルナールに、アンジェリークは頬を膨らませたが、ベルナールにとってはそれも微笑ましいものに映ったようだ。

「ああ、ごめんごめん。つい、可愛くてね」

 謝りつつも、いまにも声をたてて笑いだしそうな様子だ。

「じゃあ、ベルナール。そろそろ場所を移動しようか。まだまだポスターはたくさんあるから」

「そうだね。じゃあ、アンジェ。また今度」

 二人はそろって、こちらがほっとするような笑みを浮かべてから、仕事へ戻っていった。
 明日にはベルナールの作ったポスターに、女学院の生徒たちは本格的に心を躍らせるのだろう。

 今の私と同じように。

 アンジェリークはこっそり心の中でつぶやくと、温かくなった心をじっくりかみしめるように、ゆっくり歩き出した。






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