聖なる夜
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「この辺で良いかい?」 「うーん。そうだね、大丈夫」 エントランスに出ると、大きな掲示板の前に見知った顔を見つけたアンジェリークは、はずむ心をそのままに、二人の名前を呼ぶ。 「ジェイドさんと、ベルナール兄さん!」 アンジェリークの声に、二人は振り返った。 「やあ、アンジェリーク。久し振り」 「こんにちは。制服姿もチャーミングだよ」 二人は向いていた掲示板から、体をアンジェリークに向ける。 「二人とも、どうしたんですか?」 「うん。クリスマスパーティのお知らせを貼りに来たんだ」 ジェイドはそう言い、今貼ったばかりのポスターを指した。 そこには、穏やかな白地に、シンプルなクリスマスツリーと、赤と金の字で、「クリスマスパーティ」という字が書かれている。 詳しい日程も、その隅にあった。 「わあ! 可愛い」 「そう? それは良かった」 なぜかベルナールがにっこりとほほ笑んだ。 首をかしげていると、ジェイドが答えをくれた。 「そのお知らせ、ベルナールが描いたんだ」 「え!? 兄さんが?」 びっくりしてベルナールの顔をまじまじと見る。 親戚のお兄さんに、こんな特技があったとは知らなかった。 「そう言えば、兄さんは生徒じゃないし、ジェイドさんは購買の人なのに、お二人もクリスマスパーティにかかわっているんですね」 意外な感じがした。 理事クラスのマティアスや、生徒が企画にかかわっているのはわかるが、教師や、まして購買部の人間までも手伝っているのだ。 カルディナ側が一丸となって、この会を成功させようとしているのが伝わってきて、アンジェリークはほんのり心が温まった。 「俺たちにもできることはあるからね。あ、俺は後、当日とびきりのスイーツでみんなをもてなすつもりだよ」 「わあ、素敵!」 以前のダンスパーティの時にもジェイドお手製のお菓子を食べたが、あんなにおいしいお菓子は初めてだった。 思わずアンジェリークの顔がほころぶ。 「やっぱり女の子だね。君は小さいころから甘いお菓子が好きだったから」 「も、もう、兄さんたら。また子どもっぽいって思ったでしょう?」 昔を懐かしむ口ぶりのベルナールに、アンジェリークは頬を膨らませたが、ベルナールにとってはそれも微笑ましいものに映ったようだ。 「ああ、ごめんごめん。つい、可愛くてね」 謝りつつも、いまにも声をたてて笑いだしそうな様子だ。 「じゃあ、ベルナール。そろそろ場所を移動しようか。まだまだポスターはたくさんあるから」 「そうだね。じゃあ、アンジェ。また今度」 二人はそろって、こちらがほっとするような笑みを浮かべてから、仕事へ戻っていった。 明日にはベルナールの作ったポスターに、女学院の生徒たちは本格的に心を躍らせるのだろう。 今の私と同じように。 アンジェリークはこっそり心の中でつぶやくと、温かくなった心をじっくりかみしめるように、ゆっくり歩き出した。 |