聖なる夜

2‐5


「なあ、いいじゃねえか。教えてくれたって!」

「だから、知らないって言っているだろう」

 食堂から、二人の言いあう声が聞こえる。
 ここはメルローズ女学院だが、声は明らかに少年のものだ。
 しかも、どちらにも聞きおぼえがあった。
 アンジェリークはそっと入口から顔をのぞかせる。

 やっぱり。

 他には生徒のいなくなった食堂には、レインとロシュがいた。
 何だか珍しい組み合わせだと思いながら、しかしアンジェリークは声をかけずに少し様子を見ることにした。

「ケチケチしないで、クリスマスパーティの『秘密の企画』、教えてくれよ」

「だから、それはオレの担当じゃないから、知らないって言っているだろう。あれは理事長の企画なんだ。オレにだって情報はない」

 オレだって知りたいくらいだ、と言って肩をすくめるレインに、ロシュは何故かにやりとした。

「へええ。天下の生徒会長様も、やっぱりこの企画には興味があるのか。もしかして、狙っている子がいるとか?」

「なっ!」

 瞬間、レインが凍りつく。
 それだけでもう、十分答えは分かってしまう。
 ここぞとばかりに、畳みかけるようにロシュは続けた。

「ふうん、なるほどねえ。会長がねえ。それは今度の学校新聞のネタになりそうだな」

 そう言ってカメラを構える。
 ファインダーの向こうには、渋面のレインの顔があった。

「オレはそっちの情報でも構わないけどな。なあ、どうなんだ? 会長はどんな子が好みなんだ?」

 興味しんしんといった様子のロシュに、レインはやれやれと頭を振った。

「オレなんかの記事より、お前のほうがよほどネタに困らないだろう?」

「な、何だよ、それ」

「お前、この女学院に来てから、取材と称して生徒に声を掛けまくっているそうじゃないか。そういう記事には、お前のほうが話題豊富だろう」

 先ほどとは一転、今度はロシュが顔をしかめた。

「何だよ、良いだろ。オレがどこでどんなことをしていようと」

「ああ、全然関係ない。だから、お互い余計な詮索はおしまいだな」

 レインは、この話はもうおしまいといわんばかりに一言で片づけると、ロシュの脇を抜ける。

「じゃあな。お前にはイベント告知の仕事があるんだから、頼んだぜ」

 ――――あっ。こっちに来る!

 アンジェリークは立ち聞きしていたのが気まずくて、慌てて隣の教室に逃げ込んだ。
 廊下を歩いて行く足音と、そのあとしばらくして、もう一つの足音もだんだんと遠ざかっていく。

「・・・・・・」

 足音が完全に消えてから、アンジェリークは廊下へ出た。
 頭の中では、先ほど二人がしていた会話が再現されていた。
 アンジェリークの心の中には、立ち聞きしてしまったことへの罪悪感とは別の、もやもや感が残っていた。






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