「うん? なんだい?」

 そこにいたのは、体の大きな男性だった。
 浅黒い肌に柔らかなクリーム色の髪の彼は、持っていた箱を抱えながら、優しげな笑みを浮かべた。
 怖い人でなさそうなことにほっと胸をなでおろしながら、アンジェリークはそっと地図を差し出す。

「あの、この学校の生徒会室へ行きたいんです。どこから入ったらいいですか?」

「ああ、それなら案内してあげるよ。ね、ジェット」

 その男性は、奥にいたもう一人にそう笑いかけた。
 始めは気がつかなかったが、もう一人、黒いコートを着た男性が、のっそりと二人の間に割って入ってきた。

「構わないが、お前は誰だ。この学校の生徒ではあるまい」

 平坦な声には、多少警戒心が混じっていた。
 そういえば名乗りもしていなかったことに気がついたアンジェリークは、深々と頭を下げる。

「私はメルローズ女学院のアンジェリークと申します」

「そうなんだ。俺はジェイド。この学校の購買でパンやスイーツを販売しているんだ。それで、こっちはジェット。俺の双子の弟で、用務員なんだよ」

「・・・・・・」

 言われてみれば顔が似ている。
 しかし、片方は満面の笑み、もう片方は無表情、とあまりにも雰囲気が違うので、最初は気がつかなかった。

「ほら、ジェット。君も挨拶して」

「ああ」

 ジェットはジェイドに言われるまま、アンジェリークに手を差し出す。
 しかし、アンジェリークが握手をすると、即座に手を引っ込めてしまった。
 何か気に触ることをしてしまったのだろうか。
 困惑するアンジェリークに、

「悪く思わないで。ジェットは少し恥ずかしがりやさんなんだ」

 こっそりジェイドがそう耳打ちしてきた。
 無愛想な弟を心配しているようだ。
 それが分かったので、アンジェリークは首を振った。

「ええ。大丈夫です」

「そっか。良かった」

 再びジェイドの顔に笑みが戻る。
 ふわりと周りが明るくなる。
 そんな笑顔に誘われて、アンジェリークもいつしか微笑んでいた。

「素敵な笑顔だね。じゃあ、生徒会室まで案内してあげるよ」

「お願いします!」

 対照的な双子に案内されて、アンジェリークは改めて、初めての校舎に足を踏み入れた。






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