アンジェリークが口を開いたときだった。

「だーれだっ!」

「!!?」

 突然目の前が真っ暗になり、アンジェリークは息を飲んだ。

「あっ、あの!」

 びっくりして言葉が出てこないでいると、すぐに視界は明るくなった。

「ふふ。びっくりした? 君があんまりにもかわいらしく困っているから、ついからかいたくなっちゃった」

 悪びれた様子もなくそういいきるのは、つりあがった空色の瞳が印象的な少年だった。
 自分よりも少ししたかな、とアンジェリークは思う。
 と。

「ルネ様!」

 凛とした声が二人の耳に届いた。
 声に遅れることなく、一人の青年が駆け寄ってくる。

「勝手に走っていかれては困ります」

「もう、学校では『ルネ様』はやめてよね。ヒュウガは学校では先生なんだから」

「いえ、そうはいきません。教師でありつつ、あなたの護衛を仰せつかっている身ですから、特に授業後の護衛は欠かせません」

 ヒュウガと呼ばれた青年は、大真面目な顔できっぱりと言い切る。
 きりりと上がった眦が、潔癖な彼の性格を表していた。

「ふう。あくまで職務に忠実なんだね。まあ、それがヒュウガのいいところでもあるけどさ」

 困ったようにルネと呼ばれた少年はため息をついてみせた。

「それで、彼女はルネ様のお知り合いですか?」

 じろりと視線を向けられたアンジェリークは、その迫力に思わず身をこわばらせたが、ルネの返答はあっけらかんとしていた。

「ううん。今初めて会ったところ」

「何ですと?」

「困っているみたいだったから、声を掛けてみただけ。・・・それで、何かボクにお願いしたいことがあるんじゃないの?」

 ルネはすっとアンジェリークの目の前に移動して、彼女を見つめる。
 不思議と、心の奥まで覗かれてしまう気がした。

「あ、あの・・・私は、メルローズ女学院から来ました、アンジェリークといいます。今日は生徒会長さんに用事があったんですが、生徒会室の場所が分からなくて」

「ふうん、そうなんだ。ここには中等部の生徒会長と高等部の生徒会長といるんだけど、中等部の生徒会長とは知り合いだから、ボクが案内してあげるよ」

「ありがとうございます!」

 頭を下げて礼を述べるアンジェリークを満足そうに眺めてから、ルネはヒュウガを仰いだ。

「そういうわけだから、案内してくるね」

「・・・仕方ありません。俺も一緒に行きます」

 基本的に困っている人を放っておけないのかもしれない。

「こっちだ」

「あ、はい!」

 ヒュウガはアンジェリークを先導して歩き出した。

「あっ、ヒュウガ、ずるいー! 抜け駆けなんて!」

「え? いや、そのようなことは・・・」

 ルネとヒュウガの会話を聞きながら、アンジェリークは二人の後についていった。






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