聖なる夜
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「ねえ、アンジェ! 聞いた?」 「きゃっ!」 メルローズ女学院の長い廊下。 休み時間に、次の授業が行われる教室へ向かっていたアンジェリークは、後ろから突然親友であるサリーに抱きつかれて、危うく持っていた教科書を落としかけた。 「ああ、ごめんなさい」 「大丈夫よ、どうしたの? サリー」 振り返った先には、満面の笑みを浮かべたサリーと、穏やかな笑みをたたえたハンナがいた。 心なしか、二人とも頬を赤らめている。 三人並んで歩きながら、改めてサリーが切り出した。 「アンジェ、今年のクリスマスはすごいわよ! もう、絶対一生の思い出になるわ」 「何があるの?」 「聞いて驚くといいわ!」 思わせぶりな笑みを浮かべた後、サリーはびしりと指を立てた。 「なんと! カルディナの学校と合同でクリスマスマーティを開くんですって!!」 「え?」 カルディナの学校と言えば、この大陸の最大の教育機関のことだ。 大学は有名であるが、カルディナには大学の下に、付属の学校があり、中等部と高等部に分かれている。 今までは同じ「学校」でありながら、メルローズとカルディナはそれぞれ別々に存在していた。 だがつい最近になって、両行の関係を築く試みが行われたのだ。 それが、両校の理事を中心として行われたダンスパーティだった。 メルローズとカルディナの交流会を兼ねたダンスパーティは大成功を収め、それをきっかけに両校の距離は急速に近づいていた。 「さっき、お知らせが掲示されていたの。クリスマスイブに、ウォードンの劇場を貸し切って行われるそうよ」 「この間のダンスパーティは素晴らしかったもの。今回もとても楽しみだわ」 ね、と言ってハンナとサリーはお互いにっこり笑いあった。 あの時は、アンジェリークは実行委員という立場からイベントにかかわっていたので、あのパーティが好評だったことは素直に嬉しい。 「しかも、今回はカルディナ側がホストしてくださるんですって。ああ、どんなパーティになるのかしら」 ちょうどサリーがうっとりしたところで、次の授業が行われる教室についた。 自然とそこで会話は止まり、それぞれ自分の席に向かう。 その際、こっそりハンナはアンジェリークに耳打ちしてきた。 「早速今日、カルディナのイベント実行委員の方がいらっしゃるそうよ。もしかしたら、あなたの意中の方もいらっしゃるんじゃないかしら」 「は、ハンナ!」 どきりと胸を鳴らしたアンジェリークにおっとり微笑みかけると、ハンナも自分の席へついた。 間もなく授業が始まる。 だが、アンジェリークには先生の声は全く届いていなかった。 代わりに親友の言葉が頭をぐるぐる廻っている。 ――――意中の方・・・。 ダンスパーティをきっかけに、自然と意識し始めるようになった人物を思い浮かべ、 「!」 アンジェリークは一人、真っ赤になっていた。 |
あの人は来ているのかしら…。 |
そんな人、いないわ。 |